2024年元旦。
息子と一緒に実家に帰り、お雑煮を食べようかとキッチンのテレビをつけた瞬間が、能登半島での震災が興った瞬間だった。
15年前の東北大震災の記憶が一気によみがえり、胸が詰まる想いで、固唾を飲んでニュースに見入った。
何もできないのがもどかしい。
ただ祈ることしかできない無力感でいっぱいになりながら、11歳の息子に、地震により被災がいかなるものか、を少しずつ教えた。
(息子はインターナショナルスクールに通っているので、日本人としての文化を学んで欲しく、お線香をたむけた)
翌、2日。
母と電話で話していた最中、〝羽田空港でJAL516便が炎上している〟という速報が携帯に入り、私達は即座にニュースをつけた。
(日テレNEWS 24時より)
乗客や乗務員の安否に関する情報がなかなか入らず、私達は無言で、燃えていく機体をただ画面越しに見つめるしかなかった。
数十分後、「乗客367人、乗務員12人全員が無事に脱出」との一報が入った際、元CAの母は即座にこう言った。
「こういう時の為に、スチュワーデスは飛行機に乗っているのよ。」
「決して、空飛ぶウェイトレスとしてご飯やお酒を出すサービスを提供する為だけに乗っている訳じゃないの」
考えたこともなかった。
私の母は、今から50年前、英国航空🇬🇧のスチュワーデスとして、世界中を飛んでいた。
(英国航空現役スチュワーデス🇬🇧✈️の頃の母)
当時、日本人が採用された倍率は、今でいう局アナ級。
「何故、英国航空🇬🇧(以下BA=British Airways)なのに、日本人のクルーを乗せていたか分かる?
緊急時に、英語の分からない乗客の為に、各外国の航空会社は、日本人スチュワーデスを雇っているのよ。」
同じ理由で、BAには、インド人🇮🇳と中国人🇨🇳のスチュワーデスも当時からいたそうだ。
スチュワーデスという仕事は、長時間ずっと機内を歩いてサービスを提供する肉体労働な上、国際線では時差もあり、かなりきつい仕事だ、という話は、私が幼かった頃から良く耳にしていた。
昨日のニュースを見ながら、母は、スチュワーデスという仕事の実態を訥々と(とつとつと)電話越しに語ってくれた。
1年に一回、筆記試験と、飛行機✈️の緊急脱出スライドから降りる訓練があり、筆記試験に落ちたら、ロンドンからの帰りの飛行機には、スチュワーデスとしては乗れず(=乗客として日本に輸送される)、即クビ。
当時、BAの日本人スチュワーデスは、ボーイング707、747,とイギリス🇬🇧の飛行機のVC10の3種類の飛行機✈️での勤務体制であり(ちなみに、英国人のクルーは1機種のみ)、この3機種で、安全確認の手順・非常時の対応が違ってたので、これらを全て英語の筆記試験でクリアするのは、本当に大変だったという。
蛇足だが、それでも母の答案を毎回カンニングする英国人スチュワードがいたらしい(笑)。
(ちなみに、母は18歳で渡米し、米国🇺🇸の大学を卒業している、リアルバイリンガルである)。
さらに、当時のBAでは、機長🧑✈️から副操縦士、エンジニア、自分以外の他のスチュワードやスチュワーデスのプロセージュア(=手順、係)も覚えなくてはならず、いわば、役者が他の出演者全員の台詞を覚えなくてはならないのと同じように、膨大な記憶が要求されたのだとか。
この筆記試験、機内で病人が出た時のマニュアルも含まれており、(今は〝ドクターズキット〟と呼ばれる、機内用の救急箱に入っているもの。当時、このドクターズキットは、機長の最終許可でのみ開けることが許されていた)例えば糖尿病患者が昏睡に陥った場合のインスリンの投与の仕方や、異型狭心症患者の発作時のニトログリセリンの投与方法、その他、モルヒネを使用する場合や、妊婦の出産時の対応まで筆記試験の範囲内で、頭は半ばパニック状態だったという。
筆記試験は英語だが、頭で理解するのは日本語なわけで、日本人クルーの負荷は、普通に考えて、英国人クルーの倍だったはずだ。
(ドクターズキット等。JALホームページより)
我々医師は、免許更新制ではないので、
私は15年前の医学知識で止まったまま。この話を聞いて、医師もやはり免許更新制にしないといけないと思った。
(デモ、モシソウナッタラ、ゲンエキノトキミタクハオボエラレナイカラ、キットウカラナイ…)
海外の航空会社に乗ったことがある人にはイメージし易いと思うが、海外の航空会社には必ずスチュワードが数名乗っている。
母いわく、飛行機の中は重力が最大で地上の5.66倍までかかる為、力仕事が要求された際、男性のスチューワードはとても役に立ったのだそうだ。
例えば、飲み物や食べ物を運ぶワゴンが、飛行中は激烈に重くなり、ワゴンの出し入れはスチュワードの係だった。
事故想定でも、力仕事は、スチューワードに振られてたという。
元CAの母の、
「それ(緊急脱出)がCAの仕事だから。
そして、機内を最終確認をする役目は機長だから」
という言葉には、現場を重ねた経験の重さがどっさりとこもっていた。
今回の事故で、旅客機 JAL516便の乗客・乗務員の方々が全員無事だったことだけは、本当に不幸中の幸いだったと思う。
日々、非常時を想定し鍛錬を重ねてきたJALのパイロット・CAには、同じく、人の命を預かる現場で働いていたいち医師として、尊敬の念しかない。
一方で、被災した新潟への物資支援を輸送する為に離陸しようとしていた海上保安庁の飛行機でお亡くなりになった5名の方々に、心からお悔やみを申し上げたいと思う。(あまりに悲しい事故に、相応しい言葉が見つからない)
能登地方の被災者の方々が一刻も早く救出され、これ以上被害が膨らまないことを祈るばかりである。
R.I.P
2024.1.3
Emma拝