ストーマ(人工肛門)造設術のオペを受けてから、2日も経てば、エピドラ(🟰硬膜外麻酔)も抜け、だいぶ自由に病院内を歩くことができるようになる。
流動食から、食上げが始まった。
つまり、便がストーマから排泄され始め、いよいよオストメイトとしての人生が本格的にスタートしたわけである。
病室のテーブルの上には、ストマの管理やオストメイトの心持ちに関する大量のパンフレットが積まれていた。
パラパラと開くと、中年太りのおじさんのお腹に〝疑似ストーマ(ニセモノのストーマの模型)を付けてストーマのケアのあれやこれやが書いてある。
私のお腹はこんな出てないし、第一、ニセモノのストーマでグダグダ説明されてもぶっちゃけ意味が分からない。
こっちは、24時間、自分の意図しないタイミングでパウチ(※便をキャッチする袋)内に便がなだれ込み、その度に、お腹に生温い感覚が走る。そして慌ててトイレに駆け込むのだ。
まるで〝新しい生き物〟がお腹にくっついているかのような不快な感覚と一生付き合って行かなくはいけないというのに、模型や写真で色々説明されてもリアリティが全く湧かない。
私は、なんだかイラっとして、病院から渡された大量のパンフレットをまとめて、持って来たスーツケースに全部放り込んだ。
そもそも、人工肛門の原理や、その後の詳しいケアの仕方など、医師国家試験に出題されないから全く知らないし、オストメイトの患者さんを受け持ったことがなければ、医師であっても、ストーマを見たこともなければ、ノウハウなど全く分からない。
どんなに詳しく文字で書かれても、実技を見たことがなければ、イメージするのは不可能である。
〝これは、現場の看護師さんに聞くのが一番手っ取り早い!〟
というわけで、私は病棟でWOCナース(🟰皮膚・排泄ケア認定看護師。傷のケアやストーマの管理のプロナース)修行中の若手の看護師さん🔰に話を聞くことにした。
看護師のWさん。彼女はまだ20代で、それはそれは熱心に勉強しながら患者さんを助けている様子が垣間見れた。
「ねぇ、Wさん。頂いたパンフレット、チラ見したんですが…。〝オストメイトになって、どんだけ悲惨で辛い生活に耐えてるか〟みたいなインタビュー記事しかないの、何でなんです?
私は、ストーマを造らなければ死んでしまうところでした。これを作ってくださった先生方には、感謝しかないです
ストーマは、生きのびた勲章だと思っています。」
W看護師は、一瞬笑みを浮かべた後、深いため息をついた。
「大辻さんはドクターだから、本当の事をお話ししますね。実は、ストーマを造った後、それを受け入れられずに自死してしまう患者さんが毎年必ずいるんです。」
衝撃だった。
生き延びる為に、せっかくストーマを造ってもらったのに、自ら命を断つなんて…全く理解できなかった。
Wさんは、その後、壁にすっと寄りかかり、訥々と語り始めた。
「問題は、ストーマを造る前の段階での、ドクターの説明の仕方がほとんどなんです。それは…」
(続く)