結婚式や披露宴で僕たちだけの曲を流すなんてやめよう。
 二人の曲は二人のためのものだから。

 夫もたまにはいいことを言う。
 今はそれでよかったと思う。
 
 正午に満たない朝の光の中で聴く、二人だけにわかる曲。
 
 今日は約束通り外に出よう。
 段々と晴れてきた。
 リビングの大きな窓がきらきらと光る。
 
 部屋に響くジャズの音。
 これでよかったのだ。
 これでいいことにしなければ。
 ハネムーンの時に頂いたシャンパンをオレンジジュースで割って飲んでいる。
 FeistとBach in Brazilの音の間で揺れながら。
 
 ミモザは、昔好きではなかったお昼のお酒。
 軽いのでランチやブランチを楽しみながら奥様たちが一杯やるのに丁度いい。
 私は何の因果か奥様になってしまったので、ミモザを飲んでも差し支えない。
 
 でも私は夜に飲む。
 自分たちのアパートのリビングで。
 一人で。
 
 室井佑月のエッセイを読む。
 こんなに赤裸々な人もいる。
 ちょっとだけ元気が出る。

 今日は家から一歩も出なかった。
 でもいいのだ。
 雨だったのだから。
 
 オレンジに混じったシャンパンが血管を駆け巡る。
 正体不明の「金曜日」に胸が躍る日々。
 
 これまで書いていたブログを改めて。
 今日からまた書き直し。
 人生巻き戻しがきくのって一体いつまでなんだろう。

 朝、日本の友達と話す。
 チャットに心を救われる。
 心が死んで長いから、もう時々しかドキドキしない。
 雨がパラパラ降って来て、散歩になんて行かれない。
 
 新しい土地は容赦なく私を不安にし、今までの生活何てなかったかのように思わせる。
 お酒に手が出ないように気をつけて、音楽とカフェインで乗り切る午後。
 まだお礼状を出していない。
 ボランティアに参加していない。
 私が誰かを助ける何て、恐れ多くてできっこない。
 
 人生は貰い過ぎた桃の皮剥きのよう。
 いつまで経っても同じことの繰り返し。
 暑い暑い夏の一日。私は彼の生まれ育った土地にいた。
 インナーハーバーの水族館に行って小さな海老を飽きることなく眺めたり、名物のカニをモチーフにしたオブジェ(?)をあちこちで見る。タクシー色したカニのオブジェなどなど。
 治安が悪いと聞いていたのだけれど、流石に昼のインナーハーバーにはそれも感じなかった。
 ただ只管に強い日差しとの格闘で、あちこちで立ち止まってはお茶をした。
 午後にパーティを控えていたため、お酒の買い出しに行く。
 彼が住んでいる地域は割と白人の多いところでアジア人は一人もいなく、街行く人が好奇の視線を寄せるのがわかった。私は殊更背筋を伸ばして歩く。
 パーティでは上流家庭の紳士淑女からの質問攻めにあった。彼らは皆一様に、お気に入りである私の彼の連れて来た東洋人にどんな魅力が在るのか探り当てようとでもいうかのようだった。
 「あなた英語をお喋りになって?」
 「まぁ、日本って一度行ってみたいとは思っていましたのよ。でも結局アジアではなくていつも避暑にはヨーロッパになりますの」
 「ところで、日本ってアジアのどの辺りにあるのかしら?」

 中にはとても優しくして下さった方もいた。彼のご両親の古い友人である女の人だった。
 彼女のハグはとてもタイトで温かく、私はそこに確かな感情の流れを感じた。
 お座なりであるのなら、どうしてハグしようって思うんだろう彼らは。
 礼儀に適わないのは嫌だから?
 心底ではあんた何てどうでもいいのよと思っているのを知られたくないから?
 私はあまりハグが好きではない。本当は。

 元々パーティが大好きではない私は、家の猫に嫌がられつつ一緒に過ごす時間の方がパーティより有意義であると思ったのだった。その場を後にした私は、階段脇に座って猫と戯れた。
 Jはそんな私を階段脇から連れ出し、パーティが行われている広い広い裏庭へと連れ出してくれた。
 "I'll look out for you"
 彼の優しい言葉に感動した。
 引っ切りなしに会話をしなければいけない私の彼の代わりに、Jは私の面倒を見てくれた。あぁ、お兄さん・・・さすが長男は違うわ。そう思った瞬間だった。どんなにエロいコメントを残されても、彼とのハグは本物だと思うのでいつもいつでも別れ際にはハグを忘れないでおこう。そう思った。
 彼のお陰でパーティは最初思っていたほど苦痛ではなくなった。しかしパーティ慣れしていない私にはやはり会話が億劫で、大半はそこにいる人々の仕草や言葉の使い回しを観察、洞察しているだけだった。
 結果、人間っていうのは大陸が変わっても、いる場所が違っても、大体一緒であるといったような当たり前だが驚くべき事実がわかった。氏素性が異なるとはいえ、やはり人間という一種族なので。(むむ、スタートレックのようだ)
 
 しかし、こんなことばかりだけではなかったBaltimore。身の危険を感じたことも何度かあった。でも疲れたので以上。
 彼と二人でラスベガスへ行ったとき、何度かミュージカルに足を運んだ。
 ドレスアップして食事に赴き、その後ガンガンに冷房の効いたところで見るショーの数々は何とも言えなく私をシュールな気分にさせた。
 LA FEMMEを見に行ったとき、深紅のドレスに身を包んだ私は、あらしまった。場所を間違えたかしら、と考えた。
 小さな小さな部屋の劇場。さすがに男の人も多かったけど、女の人の姿もちらほら見え隠れしていた。
 小さなテーブル席に通され、彼と向かい合う形で座った。
 彼がオーダーしたのはラムコーク。
 私は慎ましくシャーリーテンプルを頼む。
 隣には6人の男たち。
 ショーが始まるとやんやの喝采。
 最初のステージは見渡す限りの美脚美女。
 ぷりっとしたお尻に、小さく可愛らしい胸。
 卑猥ではないけれど潔癖過ぎもしない、そんな舞台上の女の子たち。
 好きだったのはソファを使った肉体美のシーン。鍛え上げられた身体はそれでもとっても女らしく目にも柔らかで、隣の彼が惚れ惚れするのにも頷けた。
 目線でドキッ。肢体にドキッ。溢れんばかりの自信にドキッ。
 努力と素質とで輝くような美人になった彼女たち。
 彼女らは芸術作品で、ショーガールではないのだった。