使い慣れた
ドライヤーがご臨終。

この寒い冬に、
冷風で乾かすのは拷問だし
しかも、なかなか乾かない。

ってことで、
新しいドライヤーを迎えるべく
近所のケーズデンキに向かった。



ドライヤー売り場が
なかなか見つからない。

うろうろしていると
まさに、まさに

「ゴーーーーー!!!」

と、ドライヤーの音がする。

その音を頼りに行ってみると…

辿り着けた!
ドライヤー売り場!



そこで

「ゴーーーーー!!!」

と音を立てて
私を売り場に
導いてくれた(笑)のは
ひとりの女性だった。

彼女もドライヤーを
選んでいるらしい。

あれこれと手に取って、
テスト用のコンセントに差し込み

「ゴーーーーー!!!」

と風の具合なんかを
見ている様子。

私も、あれこれ物色し
気になったドライヤーを手に取り
テスト用コンセントに差し込み

「ゴーーーーー!!!」

とやってみる。

かなりの数の
ドライヤーが並ぶ。

いくつもテストしてみる。



むぅ…
わからん…
どれがいいんだか
さっぱりわからん…

となりで私と
同じ作業をしている女性も
ピンとこないらしく

何度も

「ゴーーーーー!!!」

を繰り返している。



私はその女性に声をかけた。

「悩みますよねぇ…」

彼女は答えた。

「ホント悩みますよ。
 わっかんないもん」

「有名メーカーの安いのを買うか
 無名メーカーの高いのを買うか
 同じくらいの値段でしょ、
 迷ってるんですよ」

私がそう言うと
彼女は

「私は風の強さ最優先なんですよ。
 髪が多くて乾きにくいから」

そう言って、また

「ゴーーーーー!!!」



会話は続く。

「あああ、おんなじ!
 私も髪が多くて…
 しばるとしめ縄みたいになって
 一本締めとか
 言われたことありますよ」

「私はウマのしっぽって
 言われました」

「じゃあやっぱり
 風量大事ですよね」

「そうそう」

「じゃあ、ふたつ一緒に
 比べてみましょうよ」

「あ、それ、いい、いい」

今度、私達は
ふたつのドライヤーを同時に

「ゴーーーーー!!!」

ってさせて
風量や風の強さを比べて
ああでもない
こうでもないと
繰り返す。



ひとつ目星がつく。

私はそれに決めた。
商品を手に取り、

「これにします」

と、言うと、彼女が言った。

「私もそれにしようかな」

「じゃあ、おそろってことで(笑)」

「そうしましょう!」

ふたりは同じドライヤーを
手に取った。



全然知らない人。
たまたま売り場で会った人。

ほんの短い時間だけど
私達は、同じドライヤーを
買うという目的で
そこで出会い

ちょっとの時間を
一緒に過ごした。

一緒に悩み
一緒にテストし
一緒に探し
一緒にドライヤー論議をした。

そして
同じドライヤーを手にした。



「楽しかったです!
 ありがとう!」

そう言って彼女に手を振り、
私はレジに向かった。



幸せだなぁって思った。

よくわかんないけど
幸せだなぁって。

なぜだろう

楽しかった、うれしかった
って思い出すと、

目がじゅわぁんとしちゃうんだよ。

きっともう二度と
会うこともない人だろうけど

あんなに楽しく過ごせた。
同じドライヤーを買った。
本当にうれしかった。

短い時間だったけど、
私達はドライヤー同盟の
メンバーだった。

私達は
それぞれお互いの
知らない家に帰り
同じドライヤーで髪を乾かす。

私は、きっと
時々彼女を思い出すだろう。

ちょっと勇気がいったけど
声をかけてよかったなぁ
って思った。



平凡だけど
こんな毎日が
私は大好きなんです。

なんて恵まれてるんだろう
なんて幸せなんだろう
そう思うよ。



新しいドライヤー
いい仕事をしてくれて
髪がそんなに
ばさばさにならずに乾く。

イオンなんとかってのが
いいのかしら?

ま、そんなのどうでもいいや(笑)