「先生、お疲れのところすみません」

と私が謝る前に。

「emitさん、先ほどはすみませんでした。お話し中に緊急で手術が入ってしまい十分な時間がとれず、emitさんを不安な気持ちにさせてしまいました」

そうか。
何だが先生が急にせかせかしていたのは、緊急で手術室へ行かなければならなかったからなんだ。
ごめんなさい、先生。完全に誤解していました。

「いえ、私の方こそすみません。2回も手術しなくてはいけないと聞いてから、とても落ち込んでしまって。先生が他に何か質問ありますかって聞いてくださった時に
色々聞けばよかったです。待合室で待っている時に色々浮かんできてしまい、どうしてももう一度お話させていただきたくて」

いえいえ、いえいえとお互いかしこまる。

「それでは改めてご質問ございますか? 不安に思っている事などもありましたら、なんでも構いません。お聞かせください」

「はい。私、待合室で考えたんですけど、2回も手術するなら、開腹手術1回で済ませた方がいいんじゃないかと思ったんです。折角傷が小さい腹腔鏡でも2回も体にメスを入れるとなると傷は大きくても、開腹1回で済んだ方が体に負担がかからないし、視界も開けているし安全に手術できるんじゃないですか?」

「確かに開腹手術には視界確保などのメリットもありますが、傷口が大きいので体にものすごく負担がかかりますよ。術後もお腹がつって痛いし、それこそ社会復帰も遅れてしまいます。体の負担の事を考えるなら、腹腔鏡がいいでしょう」

「そうですよね。私もそれがいいと思って、ここへ来たんでした。でも手術が2回になるというのが想定外だったので不安になりました」

「すみません。それはこちらの伝え方が悪かったです。医者の立場から絶対大丈夫ですとは言い切れないのですが、僕にはemitさんの手術を成功させる自信があります」
先生のかなりの自信発言に思わず感嘆の声が出た。

「2回手術が必要になるかもしれないという話をしてしまい、不安にさせてしまいましたが、あくまでその可能性があるという話です。出血が予定よりあまりにも多くなってしまったり、emitさんの体力の限界で手術続行が危険だと判断した場合は子宮だけ全摘出し一旦閉じます。そしてまた体力が戻った何か月後かに卵巣嚢腫の手術をすればいい。その時はその方法が一番安全だと考えます」

可能性の話は初耳だけど…。
確かに思い返してみると、先生最初からそう言ってたかも。

「僕は今までたくさんの患者さんを診て手術をしてきましたが、こればかりは経験だけではどうにも……実際に手術をしてみないとわからない事もありますので。
ただ、9割……うん。9割といってもいいかな。1回の手術で済ませられると思いますので安心……安心してくださいとまでは言えないんですが安心してお任せください」

言葉を選ぼうとしてたのに、結局「安心してください」って言ってますよ、先生。
と心の中でツッコミをいれた私は、笑顔になっていた。

なんだぁ、安心した!
誤解はすべて解けた。
可能性がありますよって話だったのか。

そう最初に言ってたっけ?
勝手に私が早とちりしてしまって落ち込んでただけ?
こんなことなら、さっきもう少し突っ込んで聞いてみればよかったな。
やっぱりコミュニケーションって大事なんだ。

 

 

アサーティブ・コミュニケーション【電子書籍】[ 戸田 久実 ]

 


それにしても、あまりにも心強い言葉だ。
ここまで自信があるって先生今まで会った事ないかも。

なんだかすごく頼もしいな。この先生。

「先生、私は自分で選んでここへ来ました。腹腔鏡手術の経験が豊富な先生なら、なんとかしていただけるんじゃないかと思って来ました。色々不安な事はありましたが、さっきの先生の言葉がとても心強かったです。私、先生を信じます。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、説明が足りず不安にさせてしまいすみませんでした。先ほどの手術の話でemitさんが途中から元気なくなってしまったので、気になっていたんですよね。
こうやって改めてご説明できてよかったです。今後もまた何か不安な事や相談したいことがありしたら、遠慮なく聞いてください」

 

そうだったんだ。

胸から熱くこみ上げるものがあった。

もう一度先生とお話できてよかった。


「ありがとうございます。今のところ聞きたいことは全部聞けたので、今日のところは大丈夫です」

「それはよかった」と先生は微笑んで、続けた。

「この後は骨密度の検査とリュープリン注射ですが、どうですか? 行けますか?」

 

 

 

 

「はい、もう大丈夫です!」

自然と明るい声が出ていた。