第一印象はよかった。


口調もやわらかくて、ゆっくりと話す印象。
「遠い所からわざわざ」と労ってくれた。
「最善を尽くします」と言ってくれた。
私の体を第一に考えて、一番良い方法を提示してくれた。

でも、やっぱり忙しいんだろうな。
「早く切り上げたい」という空気を感じとってしまった。

最後に「ほかに何か質問はありますか?」と聞いてくれたけど、そんなに忙しそうな先生を引き留めたら悪いという気持ちと、私自身質問する元気もなくお礼だけ伝えて退出した。

子供をあきらめる選択をして、自分の体を第一に考えた。
腹腔鏡はできる。

でも、手術は2回になるかもしれない。
2回も切るなら、いっそのこと開腹手術で1回で済ませた方がいいのではないか?
ここにきて本当によかったんだろうか?
これから通うの大変だし。

大人しく近くの病院で開腹手術すればよかったかもしれない。

冷静に考えると、当然そんなことはない。


まず、ここへ来たのは腹腔鏡ができるかを確認しにきたのだから。

目的は達成している。
それに卵巣嚢腫がガン化する恐れがある、手術を早いうちにした方がいいと薦めてくれたのはこちらの先生であり、今の自分の病状がより詳しく知れたのだからよかったはずだ。

でも。

 

待合室で待っていると、涙が出そうになった。
こんな人がたくさんいるところで泣くなんて恥ずかしい。

なんとか心を穏やかに保とう。

そうだ、猫ちゃん見よう。
スマホの壁紙に設定している、お気に入りの写真。
しあわせそうにすやすやと眠っている子猫。

 



かわいいなぁ。

その安心しきった寝顔にちょっと癒された。

持っていたスマホがブルッと震える。

「emitさーん、お入りくださーい」

元気な看護師さんの声。

嫌だな。
もう帰りたい。

私はぼーっとしながら、重い足取りで処置室へ入った。

 

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「これからリュープリンという生理を止める注射を打つんですけど、その前に骨密度を測りましょっ。靴下を脱いでこちらの測定器に足をのせてくださーい」

テキパキはきはきと看護師さんは手際よく準備していく。

いつもならそのテキパキはきはきがなんとも心強く感じるけど、今の私には恐怖にしか感じない。

生理を止める。赤ちゃんが産めない体になる。
覚悟はしていたはずなのに、薬で強制的に体をコントロールする事がなんだとてつもなく怖い事に感じた。

13歳の時に初潮が来てこれまで約30年間、不快で辛い生理を我慢してきたのは、いつか生まれてくる可愛い赤ちゃんのためだった。

今までなんだったんだろう。

赤ちゃんも産めないし、お腹も切るって、なんなんだろう。
このまま靴下を脱いで足をのせてしまったら、いろんなことが始まってしまう。

始まる前に言おう。今ならまだ引き返せる。

「ぁの……」

「どうされましたー?」

「ゃめます……」

「え?」

看護師さんは何言ってるんだこの人はといった表情でこちらを見た。
「ああ、困らせてる。ごめんなさい」と思いながら言葉がとまらなかった。

「手術、やめます」

一旦脱ぎ掛けた靴下を履きなおした。

「手術やめるんですかっ? えっ? それ先生はご存じですか?」
「先生には、まだ話していません。待っていたら、急に怖くなってしまって」

すみません、と謝った。
「ちょっともう一度先生に話を聞いてもらった方がいいかもしれませんね。

少し待っていてください」

 

というと看護師さんは先生に確認をとってくれているようだった。
しかし私の先生は緊急手術のため不在。2時間は戻ってこないという。

他の先生にも事情を話して確認をとってくれたようだが、自分ではなくその先生と直接話した方が今後のためにも良いのではないかという判断だったようだ。

その配慮が、私にはとてもありがたかった。

「お時間大丈夫ですか?」
「はい」

私はどうしても先生ともう一度話したくて、待たせてもらうことにした。

 

 

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