2023年8月20日アマゾンより「実践形而上学命題詩集 不可知の雲」(ペーパーバック版、電子書籍版)上下巻を刊行しました。
今回が「実践形而上学命題詩集 不可知の雲」の主要命題について述べる最後となります。
この主要命題とは、アリストテレスが自身の第一哲学を述べるにあたって提示した30語に基づいて、それぞれ2語1組を15の命題として表したものです。
最後はペラス/プセウドスについて取り上げます。
ペラス/プセウドスの命題は、以下の通りになります。
「あなたが、自身が限られる処のものに生きられていることと、あなたが、他と異なるものに生きられていることとは一つのことである。
あなたは、自身が限られる処のものに他と異なるものに生きられ、
自身が他と異なるものに限られる、自分であるものを生きているのである。」
ペラス/プセウドス、それぞれについて見てゆきます。
プセウドスとは「誤る」を表す言葉で、ここでは「自身が他と異なるものに生きられていること」と定義します。
通常、誤るとは、正しくないこと、偽りであることです。
ある原理、規則に照らして、それに合致しないものを言い、私たちはこれを排除することが正義であるとしています。
しかし、そう単純に、それは原理に反している、規則違反だと言い切り、それを排除するということはできるでしようか。
科学の世界でははっきりとしていることが、こと私たち自身のこととなると、必ずしもこれは間違っている、これは正しいと断言することができるわけではありません。
一番わかり易い例で言えば、正義という言葉は、ある人や集団にとって正しいけれども、他の人や集団にとっては正しくはないということはザラにあります。
これは真理と言われるものに対しても当てはまります。
たとえば、神の存在です。
神の存在を信じる人、または神の存在を前提にして生きている人にとって、神の存在は偽りのない真実です。
しかし、神の存在を前提としない人もまたいて、科学こそ真実たりうると考えます。
こうしてみると、真実であるか、そうではないかというのは紙一重なのだと言えるでしょう。
ではなにがそうさせるか。
それが次のテーマ、ペラスです。
ペラスは、「限定」を意味する言葉で、ここでは、「自身が限られる処のものに生きられていること」と定義します。
あなたにとってなにが正しく、なにが正しくはないかは、あなたがどのように限られる処のものに生きられているかにかかわっています。
あなたが限られる処のものに生きられているものによって、あなたはなにが正しく、なにが正しくはないかが定まっているのです。
それは他者があなたに対して見るものもまた同様で、
他者が限られる処のものに生きられているものによって、あなたを正しいか、正しくはないかを判定しているのです。
このように書くと、なにやら誰にとっても真実というものはないといった相対主義のように感じられるかもしれません。
しかし、言わんとするところはそこではありません。
あなたの正しさの判断の基準、
他者のあなたに対する正しさの判断の基準が、
限られる処のものに生きられたものだということです。
仏教からすれば、そうした限られたものに生きられているものから解き放たれることを勧めることでしょうが。
ここでちょっと、古代ローマの末期にキリスト教の発展に大きな影響を与えたヒッポのアウグスティヌスについて紹介したいと思います。
このキリスト教最大の教父と呼ばれたアウグスティヌスは、人間の自由意志について述べたことで知られます。
彼は、人間には自由意志はないと断言します
そして、ただ神から生きられる処のものにおいてのみ、人間に自由意志は与えられていると。
これは、人間には自分自身のことを決定することができないということです。
ただ神から定められた処のものを生きるしか、
自分自身を決定することができない。
これは一見、人間性を否定しているように聞こえます。
しかし考えてみれば、私たちは自身が限られる処のものに生きられたものにおいてのみ、
なにが正しく、なにか正しくはないかを定めて生きています。
つまり、私たちはもとから純粋に自分自身を決定して生きる自由意志などというものはなく、
他から与えられているものに従って、
あたかも自分自身の意志であるかのように自分自身を定めて生きているというふうにも考えることができるかもしれません。
この他から与えられているものが、じつにくせものです。
それはあなたの潜在意識の中に、知らず知らず植え付けられたものということになります。
アウグスティヌスは、自分自身の知らない処のものから、自身の潜在意識の中に植え付けられたものではなく、
彼が言う処の神によってのみ、真実あなたが生きられるべきことを自身の口を通して強く発したのです。
上 巻
序
本書の構成と目論見
実践形而上学用語集
実践形而上学の中心命題
第一部 古代形而上学命題詩集(哲学第一部)
1 なにものにもとらわれぬ自身の自然であるものを了解する処のものに、この世界に現されるからだ(アルケー~ピュシス)~タレスの主題による
2 この世界から限られる処のものに他と異なるものに生きられるとともに、限られない永遠のものに向かって消滅するからだ(プセウドス~ペラス)~アナクシマンドロスの主題による
3 世界のあまたから、自身の部分であるものを受け取るからだ(パトス~メロス)~アナクシメネスの主題による
4 互いをなくてはならないものに生きるからだ(ト・エク・ティノス、エイナイ~アナンカイオン)~ピュタゴラスの主題による
5 自身が動ずることなく肯なわれる処のものに基づかれるからだ(アイティオン~オン)~クセノパネスの主題による
6 他のなにものでもない、このものに永遠に保ち持つからだ(エケイン~カト・ホ)~パルメニデスの主題による
7 思いなしを疑うことで、より自分であるものに生きられるからだ(ポソン~アンティケイメナ)~エレアのゼノンの主題による
8 欠ける処のない自然から余す処なく生きられるからだ(ホロン~テレイオン)~メリッソスの主題による
9 毀たれることで、否むことができぬものに生きられるからだ(ウーシア~コロボン)~ヘラクレイトスの主題による
10 もとから自身があろうとするものに生きられるからだ(ヘクシス~デュナミス)~エンペドクレスの主題による
11 分かつことができぬ、一なるものに、この世界を在らすからだ(ディアテシス~ヘン)~アナクサゴラスの主題による
12 今生、同じものを生きる処のものに結ばれたからだ(ゲノス~タウタ)~レウキッポス、デモクリトスの主題による
13 自身の欠ける処のものに成り立たせられるからだ(ストイケイオン~ステレーシス)~ソクラテスの主題による
14 自身の了解を超えた、この自分ではない自分を生きるからだ(ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス)~プラトンの主題による
15 他から分かつことで直にかかわるからだ(プロス・ティ~ポイオン)~アリストテレスの主題による
附録一 一なるからだの形而上学~ヘレニズム哲学とプロティノス
第二部 中世形而上学命題詩集(神学第一部)
1 自身がこの世界に現されている処のものを了解するからだ(ピュシス~アルケー)~ヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの主題による
2 自身が信じ、基づくものから、自分であるものに生かせられるからだ(オン~アイティオン)~クレルヴォーのベルナルドゥスの主題による
3 手放すことで、もとから自身があろうとするものに瞬時に生きられるからだ(デュナミス~ヘクシス)~マイスター・エックハルトの主題による
4 空しくあればあるほど余す処なく、欠ける処のないものに充ち足らせられるからだ(テレイオン~ホロン)~アッシジのフランチェスコの主題による
5 仮の自分ではなく、真の自分であるものに生きられるからだ(シンベベーコス~プロテロン、ヒステロン)~ウィリアム・オヴ・オッカムの主題による
6 否むことができぬものから直にかかわられる処のものに、他から分かたれたものに生きられるからだ(ポイオン~プロス・ティ)~マルティン・ルターの主題による
7 固有の自分であるものが成り立たせられるのに欠ける処のものに生きられるからだ(ステレーシス~ストイケイオン)~ペトルス・アベラルドゥスの主題による
8 否むことができぬものから、同じ否むことができぬものに生きられるからだ(カト・ホ~エケイン)~ドゥンス・スコトゥスの主題による
9 否むことができぬものから毀ち生きられるからだ(コロボン~ウーシア)~カンタベリーのアンセルムスの主題による
10 段階的に受け取る、自身の部分であるものに生きられるからだ(メロス~パトス)~ボナウェントゥラの主題による
11 互いが他から分かたぬ処のものに、同じ一なるものに生きられる類似的なからだ(タウタ~ゲノス)~トマス・アクイナスの主題による
12 より生きられる処のものに否まれるからだ(アンティケイメナ~ポソン)~ニコラス・クザーヌスの主題による
13 この世界に具体的に在らされる処のものに、分かつことができぬ、一なるものに生きられるからだ(ヘン~ディアテシス)~サン・ヴィクトール学派の主題による
14 自身が先んじられるものから、なくてはならないものに生きられるからだ(アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~シャルトルのティエリーの主題による
15 自身がこの世界をどのようにも生きる処のものに、否むことができぬものから生きられるからだ(ペラス~プセウドス)~ヒッポのアウグスティヌスの主題による
附録二 異端のからだの形而上学~キリスト教異端思想
(520頁)
下 巻
本書の構成と目論見
第三部 近代形而上学命題詩集(哲学第二部)
1 自身が生きられているものを問う処のものに真の自分であるものに生きられるからだ(ストイケイオン~ステレーシス)~判断中止、モンテーニュの主題による
2 とらわれなく、ただ真実に基づかれる処のものに生きられるからだ(プセウドス~ペラス)~イドラ、フランシス・ベーコンの主題による
3 自身が生きられているものを毀つことで、否むことができぬものに生きられる透明なからだ(ウーシア~コロボン)~コギト、デカルトの主題による
4 否むことができぬものにおいてのみ、否むことができぬものに生きられるからだ(ウーシア~コロボン)~機会原因論、マルブランシュの主題による
5 否むことができぬものと分かつことができぬ、一なるものに生きられるからだ(ディアテシス~ヘン)~汎神論、スピノザの主題による
6 互いが分たれながら、なお分かたれぬものに直にかかわり合われるからだ(ゲノス~タウタ、プロス・ティ~ポイオン)~モナド、ライプニッツの主題による
7 日々自身の部分であるものを受け取る処のものに、自分であるものに生きられるからだ(パトス~メロス)~タブラ・ラサ、ロックの主題による
8 この自分ではないものから自分であるものに生きられるからだ(ゲノス~タウタ)~唯心論、バークリの主題による
9 自身が生きられている世界をねつ造するからだ(プセウドス~ペラス、ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス)~知の限界、ヒュームの主題による
10 否むことができぬ自分であるものを生きる処のものに世界を創造するからだ(パトス~メロス)~コペルニクス的転回、カントの主題による
11 この世界からより生きられる処のものに世界を創造するからだ(ポソン~アンティケイメナ)~自我による世界の弁証法的創造、フィヒテの主題による
12 世界のうちに自身が生きられるものを認め、自身のうちに世界が生きられるものを認める処のものに、自分であるものを生きるからだ(ゲノス~タウタ)~同一哲学、前期シェリングの主題による
13 互いがより肯われる処のものに否まれるからだ(ポソン~アンティケイメナ、アイティオン~オン)~世界の弁証法的発展、ヘーゲルの主題による
14 この世界とはかかわりなく、他から分かたれた自分のみから生きられるからだ(プロス・ティ~ポイオン)~厭世主義、ショーペンハウアーの主題による
15 この世界が生み出されてくるものを、積極的に引き受けるからだ(ヘクシス~デュナミス)~デミウルゴス、後期シェリングの主題による
16 誰もが生きられているものから自身を分かつことで、他の誰でもない、この自分であるものを生き始めるからだ(プロス・ティ~ポイオン、ウーシア~コロボン)~実存、キェルケゴールの主題による
17 この自分であるものから限られなく生きられるからだ(ウーシア~コロボン、ヘクシス~デュナミス)~ニヒリズム、ニーチェの主題による
18 自身が生み出されてくる処のものに、この世界を生きるからだ(ヘクシス~デュナミス)~深層心理、フロイトの主題による
19 自身が了解し得るものにから、この自分であるものに生きられるからだ(ピュシス~アルケー)~沈黙、ヴィトゲンシュタインの主題による
20 限られた命であるものに生きられるからだ(プセウドス~ペラス)~現存在、ハイデガーの主題による
第一部から第三部までのまとめ
第四部 現代形而上学解題詩集(神学第二部)
1 あらかじめ自身が生きられているものを答う自分であるものに生きられている(ステレーシス~ストイケイオン)~モンテーニュへの回答
2 過つことで、他のなにものでもない、この自分であるものに生きられている(ペラス~プセウドス、カト・ホ~エケイン)~ベーコンへの回答
3 もとから毀つことができぬ、否むことができぬものに生きられている(デュナミス~ヘクシス、コロボン~ウーシア)~デカルトへの回答
4 あなたなくして、なにものも否むことができぬものに生きられぬからだ(コロボン~ウーシア、アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~マルブランシュへの回答
5 あなたを世界自身であるものに生きている(ピュシス~アルケー)~スピノザへの回答
6 一なる命であるものに生きられながらも、他と異なるかけがえのない命を生きている(ペラス~プセウドス、タウタ~ゲノス)~ライプニッツへの回答
7 受け取ることができなかった、自身の部分であるものからも生きられている(メロス~パトス、ステレーシス~ストイケイオン)~ロックへの回答
8 この自分に留まることもできれば、この自分を離れて生きることもできる(シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~バークリへの回答
9 自身の了解を超えた自分であるものに生きられている(シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ヒュームへの回答
10 あらかじめ否むことができぬ自分であるものに生きられている(メロス~パトス、コロボン~ウーシア、アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~カントへの回答
11 自身が生きなければ生きないほど、自身のうちでより生きられる世界(アンティケイメナ~ポソン、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~フィヒテへの回答
12 他者のうちに自身が生きられ、自身のうちに他者が生きられる処のものに創造されている(タウタ~ゲノス)~前期シェリングへの回答
13 変わらぬ自分であるものに生きられている(ヘン~ディアテシス)~ヘーゲルへの回答
14 自身をこの世界につねに保ち持つものから、他のなにものでもない、このものに生かせられている(カト・ホ~エケイン)~ショーペンハウアーへの回答
15 あなた自身から生み出されてくる処のものに生きられている(デュナミス~ヘクシス)~後期シェリングへの回答
16 否むことができぬものから、他から分かつ処のものにかかわられている(ポイオン~プロス・ティ)~キェルケゴールへの回答
17 この自分ではないものから生きられているものを毀とうとすれば毀とうとするほど、自身の了解を超えたものから、否むことができぬこの自分であるものに生きられている(ウーシア~コロボン、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ニーチェへの回答
18 この世界から自身が生みだされてくる処のものに生きられている(デュナミス~ヘクシス)~フロイトへの回答
19 自身の了解し得るものから生きられることで、自身の了解を超えた処のものを生きられている(ピュシス~アルケー、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ヴィトゲンシュタインへの回答
20 自身が生きられているものをどのようにも生きることができる(ペラス~プセウドス、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ハイデガーへの回答
補足 自身が現に生きられているものと、意識することで生きることができるものから生きられている~量子力学における世界の十一次元解釈から(アルケー~ピュシス、ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス、カト・ホ~エケイン)
(501頁)
実践形而上学命題詩集「不可知の雲」エミシヲ著
上巻(ペーパーバック版2700円、税込2970円、送料別、電子書籍版1000円)
下巻(ペーパーバック版2700円、税込2970円、送料別、電子書籍版1000円)
※電子書籍版は低価格で利用しやすく、改定時にもすぐ反映されるのでよいですが、できればペーパーバック版をお勧めします。紙の本としていつでも手に取ることができる方がなによりよいことだと思うので。

