他から分かたれた自分に生きられていることと、他から直にかかわられる自分に生きられていること | 同胞たる、おっとりとした頬を求めて!

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世界とは、貴方について書かれた書物である。

2023年8月20日アマゾンより「実践形而上学命題詩集 不可知の雲」(ペーパーバック版、電子書籍版)上下巻を刊行しました。

 

しばらく「実践形而上学命題詩集 不可知の雲」の主要命題について述べてゆきます。

 

この主要命題とは、アリストテレスが自身の第一哲学を述べるにあたって提示した30語に基づいて、それぞれ2語1組を15の命題として表したものです。

 

今回はポイオン/プロス・ティについて取り上げます。

 

ポイオン/プロス・ティの命題は、以下の通りになります。

 

「あなたが他から分かたれた自分であるものに生きられていることと、あなたが他から直にかかわられる処のものに生きられていることとは一つのことである。

あなたは他から分かたれることで、他から直にかかわられる自分であるものに生きられ、

他から直にかかわられる処のものに、他から分かたれた自分であるものを生きているのである。」

 

プロス・ティとポイオン、それぞれの意味について説明したいと思います。

 

まずプロス・ティは関係を表す言葉で、ここでは「他から直にかかわられる処のものに生きられている」と定義します。

 

あなたが他から直にかかわられる処のものに生きられているものとはなにか。

 

あなたが自分であるものを生きる上で、あなたが直にかかわられているものということです。

 

それは、ここで取り上げるもうひとつのテーマ、ポイオンを通して明らかになります。

 

ポイオンは性質を表す言葉で、それが他とどのように異なっているかを指し示すものであり、ここでは、「あなたが他から分かたれたものに生きられているもの」と定義することができます。

 

他とどのように異なっているかは、他とひとつになっている間は把握することはできず、他から引き離すことができて初めて、それが、他とどのように異なっているかを知ることができるものです。

 

ここで、プロス・ティ/ポイオンが表しているものが明らかになってくるでしょう。

 

それは、他から分かつことで、他と異なるものに直にかかわられているものということです。

 

ここで二人の哲学者について取り上げたいと思います。

 

一人はアリストテレスです。

 

アリストテレスは、師のプラトンとは異なり、現実に生きられている事柄から真実であるものを探ろうとしました。

 

そこで彼が用いた手法こそ、現れている事象を分割することでした。

 

曖昧なものとして現れているものをさまざまに分かつことで、はっきりと言えることを導き出そうとすることで、それは後世のイギリス経験論者たちの帰納法(師のプラトンの方は、デカルトが発明した演繹法の祖先ということになります)の先がけとなっています。

 

アリストテレスは、この世界に曖昧模糊として存在しているものを他から分かち、さらにそのものを細かく分かつことで(これを分析といいます)、そのものが持つ本質であるものに直に触れることに成功したのです。

 

プロス・ティ/ポイオンの命題は、アリストテレスのおいて、この世界に現れているものの本質に、直に触れる手法を裏付けたものとして表されているのです。

 

このプロス・ティ/ポイオンの命題は、哲学、そこから派生した科学とは別に、宗教においてもまた、とくに重要です。

 

神と個人の関係がつねに問われる宗教(キリスト教)では、個々の人間は、社会とは別に神と一対一に交わることが定められた存在であり、

 

神と一対一に交わるために、個々の人間は社会から分かたれることになるのです(じつは自由の問題は神と切って離すことができない課題なのです)。

 

むろん、個々人は社会と完全に分かたれることはなく、社会を通じて自分であるものを生きるわけですが、一方においては社会から分たれて神と一対一の交わりを結ぶ存在でもあります。

 

ただ聖職者のみ、これを自ら進んで社会から分かたれて神と一対一の関係を生きることが許され、

 

その他、世俗の人間は、自らの意志で社会から分かたれることはなく、ただ神だけが個々の人間を他から分かち生きる存在であったのです。

 

個々の人間が自らの意志で社会から分かたれることは、自身の社会的存在性を否定することになり、また、神から社会的存在として生きられていることへの否定にもなります。

 

しかし、19世紀のキェルケゴールは、あえて社会から自分を分かち、神と一対一の関係を結ぶことで、他のなにものでもない、この自分であるものを生きる実存の思想を創始したのです。

 

これは、それまで神自身が他から分かつことで、個々の人間に直にかかわっていたのを、

自らの意志で自身を他から分かつことで、自分から積極的に神と一対一の関係を結ぼうとする企てだと言えるでしょう。

 

社会的な存在である自分を否定することで、社会的な存在以前に、神と一対一の関係でのみ生きられる、他のなにものでもない自分であるものを生きようとしたのです。

 

と、神と個々人の関係でこのプロス・ティ/ポイオンの命題を話しましたが、むろん、神を介さずともこれは純粋に社会と個々人の問題として考えることができます。

 

それは孤独という問題です。

 

あなたは他から分かたれぬことで孤独感を感じずに済むことができます。

 

他から分かたれることは、なんらかの孤独感を背負い込むことかもしれません。

 

しかし、それは、ここに生きる自分自身と直に向き合う機会だとも言えるでしょう。

 

他に混じっているとき、あなたは自分自身というものを真剣に思いやったことがなかったかもしれません。

 

他に合わせてばかりいて、自分というものがないで生きて来た。

 

それはそれで悲しいことです。

 

あなたは、他の誰でもない、自分であるものを持っているのです。

 

ときに他から離れて、自分自身と直に向かい合うことはとても必要なことなのです。

 

自分自身を心底大切に思うことができるあなたが、他の人を心底大切に思うことができるのです(じつはこれは神のはからいであったり)。

 

 

次回は、ステレーシス/ストイケイオンを取り上げます。

 

 

 

上 巻

本書の構成と目論見
実践形而上学用語集
実践形而上学の中心命題
第一部 古代形而上学命題詩集(哲学第一部)
1 なにものにもとらわれぬ自身の自然であるものを了解する処のものに、この世界に現されるからだ(アルケー~ピュシス)~タレスの主題による
2 この世界から限られる処のものに他と異なるものに生きられるとともに、限られない永遠のものに向かって消滅するからだ(プセウドス~ペラス)~アナクシマンドロスの主題による
3 世界のあまたから、自身の部分であるものを受け取るからだ(パトス~メロス)~アナクシメネスの主題による
4 互いをなくてはならないものに生きるからだ(ト・エク・ティノス、エイナイ~アナンカイオン)~ピュタゴラスの主題による
5 自身が動ずることなく肯なわれる処のものに基づかれるからだ(アイティオン~オン)~クセノパネスの主題による
6 他のなにものでもない、このものに永遠に保ち持つからだ(エケイン~カト・ホ)~パルメニデスの主題による
7 思いなしを疑うことで、より自分であるものに生きられるからだ(ポソン~アンティケイメナ)~エレアのゼノンの主題による
8 欠ける処のない自然から余す処なく生きられるからだ(ホロン~テレイオン)~メリッソスの主題による
9 毀たれることで、否むことができぬものに生きられるからだ(ウーシア~コロボン)~ヘラクレイトスの主題による
10 もとから自身があろうとするものに生きられるからだ(ヘクシス~デュナミス)~エンペドクレスの主題による
11 分かつことができぬ、一なるものに、この世界を在らすからだ(ディアテシス~ヘン)~アナクサゴラスの主題による
12 今生、同じものを生きる処のものに結ばれたからだ(ゲノス~タウタ)~レウキッポス、デモクリトスの主題による
13 自身の欠ける処のものに成り立たせられるからだ(ストイケイオン~ステレーシス)~ソクラテスの主題による
14 自身の了解を超えた、この自分ではない自分を生きるからだ(ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス)~プラトンの主題による
15 他から分かつことで直にかかわるからだ(プロス・ティ~ポイオン)~アリストテレスの主題による
附録一 一なるからだの形而上学~ヘレニズム哲学とプロティノス
第二部 中世形而上学命題詩集(神学第一部)
1 自身がこの世界に現されている処のものを了解するからだ(ピュシス~アルケー)~ヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの主題による
2 自身が信じ、基づくものから、自分であるものに生かせられるからだ(オン~アイティオン)~クレルヴォーのベルナルドゥスの主題による
3 手放すことで、もとから自身があろうとするものに瞬時に生きられるからだ(デュナミス~ヘクシス)~マイスター・エックハルトの主題による
4 空しくあればあるほど余す処なく、欠ける処のないものに充ち足らせられるからだ(テレイオン~ホロン)~アッシジのフランチェスコの主題による
5 仮の自分ではなく、真の自分であるものに生きられるからだ(シンベベーコス~プロテロン、ヒステロン)~ウィリアム・オヴ・オッカムの主題による
6 否むことができぬものから直にかかわられる処のものに、他から分かたれたものに生きられるからだ(ポイオン~プロス・ティ)~マルティン・ルターの主題による
7 固有の自分であるものが成り立たせられるのに欠ける処のものに生きられるからだ(ステレーシス~ストイケイオン)~ペトルス・アベラルドゥスの主題による
8 否むことができぬものから、同じ否むことができぬものに生きられるからだ(カト・ホ~エケイン)~ドゥンス・スコトゥスの主題による
9 否むことができぬものから毀ち生きられるからだ(コロボン~ウーシア)~カンタベリーのアンセルムスの主題による
10 段階的に受け取る、自身の部分であるものに生きられるからだ(メロス~パトス)~ボナウェントゥラの主題による
11 互いが他から分かたぬ処のものに、同じ一なるものに生きられる類似的なからだ(タウタ~ゲノス)~トマス・アクイナスの主題による
12 より生きられる処のものに否まれるからだ(アンティケイメナ~ポソン)~ニコラス・クザーヌスの主題による
13 この世界に具体的に在らされる処のものに、分かつことができぬ、一なるものに生きられるからだ(ヘン~ディアテシス)~サン・ヴィクトール学派の主題による
14 自身が先んじられるものから、なくてはならないものに生きられるからだ(アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~シャルトルのティエリーの主題による
15 自身がこの世界をどのようにも生きる処のものに、否むことができぬものから生きられるからだ(ペラス~プセウドス)~ヒッポのアウグスティヌスの主題による
附録二 異端のからだの形而上学~キリスト教異端思想 
(520頁)

 

 

下 巻
本書の構成と目論見
第三部 近代形而上学命題詩集(哲学第二部)
1 自身が生きられているものを問う処のものに真の自分であるものに生きられるからだ(ストイケイオン~ステレーシス)~判断中止、モンテーニュの主題による
2 とらわれなく、ただ真実に基づかれる処のものに生きられるからだ(プセウドス~ペラス)~イドラ、フランシス・ベーコンの主題による
3 自身が生きられているものを毀つことで、否むことができぬものに生きられる透明なからだ(ウーシア~コロボン)~コギト、デカルトの主題による
4 否むことができぬものにおいてのみ、否むことができぬものに生きられるからだ(ウーシア~コロボン)~機会原因論、マルブランシュの主題による
5 否むことができぬものと分かつことができぬ、一なるものに生きられるからだ(ディアテシス~ヘン)~汎神論、スピノザの主題による
6 互いが分たれながら、なお分かたれぬものに直にかかわり合われるからだ(ゲノス~タウタ、プロス・ティ~ポイオン)~モナド、ライプニッツの主題による
7 日々自身の部分であるものを受け取る処のものに、自分であるものに生きられるからだ(パトス~メロス)~タブラ・ラサ、ロックの主題による
8 この自分ではないものから自分であるものに生きられるからだ(ゲノス~タウタ)~唯心論、バークリの主題による
9 自身が生きられている世界をねつ造するからだ(プセウドス~ペラス、ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス)~知の限界、ヒュームの主題による
10 否むことができぬ自分であるものを生きる処のものに世界を創造するからだ(パトス~メロス)~コペルニクス的転回、カントの主題による
11 この世界からより生きられる処のものに世界を創造するからだ(ポソン~アンティケイメナ)~自我による世界の弁証法的創造、フィヒテの主題による
12 世界のうちに自身が生きられるものを認め、自身のうちに世界が生きられるものを認める処のものに、自分であるものを生きるからだ(ゲノス~タウタ)~同一哲学、前期シェリングの主題による
13 互いがより肯われる処のものに否まれるからだ(ポソン~アンティケイメナ、アイティオン~オン)~世界の弁証法的発展、ヘーゲルの主題による
14 この世界とはかかわりなく、他から分かたれた自分のみから生きられるからだ(プロス・ティ~ポイオン)~厭世主義、ショーペンハウアーの主題による
15 この世界が生み出されてくるものを、積極的に引き受けるからだ(ヘクシス~デュナミス)~デミウルゴス、後期シェリングの主題による
16 誰もが生きられているものから自身を分かつことで、他の誰でもない、この自分であるものを生き始めるからだ(プロス・ティ~ポイオン、ウーシア~コロボン)~実存、キェルケゴールの主題による
17 この自分であるものから限られなく生きられるからだ(ウーシア~コロボン、ヘクシス~デュナミス)~ニヒリズム、ニーチェの主題による
18 自身が生み出されてくる処のものに、この世界を生きるからだ(ヘクシス~デュナミス)~深層心理、フロイトの主題による
19 自身が了解し得るものにから、この自分であるものに生きられるからだ(ピュシス~アルケー)~沈黙、ヴィトゲンシュタインの主題による
20 限られた命であるものに生きられるからだ(プセウドス~ペラス)~現存在、ハイデガーの主題による
第一部から第三部までのまとめ
第四部 現代形而上学解題詩集(神学第二部)
1 あらかじめ自身が生きられているものを答う自分であるものに生きられている(ステレーシス~ストイケイオン)~モンテーニュへの回答
2 過つことで、他のなにものでもない、この自分であるものに生きられている(ペラス~プセウドス、カト・ホ~エケイン)~ベーコンへの回答
3 もとから毀つことができぬ、否むことができぬものに生きられている(デュナミス~ヘクシス、コロボン~ウーシア)~デカルトへの回答
4 あなたなくして、なにものも否むことができぬものに生きられぬからだ(コロボン~ウーシア、アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~マルブランシュへの回答
5 あなたを世界自身であるものに生きている(ピュシス~アルケー)~スピノザへの回答
6 一なる命であるものに生きられながらも、他と異なるかけがえのない命を生きている(ペラス~プセウドス、タウタ~ゲノス)~ライプニッツへの回答
7 受け取ることができなかった、自身の部分であるものからも生きられている(メロス~パトス、ステレーシス~ストイケイオン)~ロックへの回答
8 この自分に留まることもできれば、この自分を離れて生きることもできる(シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~バークリへの回答
9 自身の了解を超えた自分であるものに生きられている(シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ヒュームへの回答
10 あらかじめ否むことができぬ自分であるものに生きられている(メロス~パトス、コロボン~ウーシア、アナンカイオン~ト・エク・ティノス、エイナイ)~カントへの回答
11 自身が生きなければ生きないほど、自身のうちでより生きられる世界(アンティケイメナ~ポソン、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~フィヒテへの回答
12 他者のうちに自身が生きられ、自身のうちに他者が生きられる処のものに創造されている(タウタ~ゲノス)~前期シェリングへの回答
13 変わらぬ自分であるものに生きられている(ヘン~ディアテシス)~ヘーゲルへの回答
14 自身をこの世界につねに保ち持つものから、他のなにものでもない、このものに生かせられている(カト・ホ~エケイン)~ショーペンハウアーへの回答
15 あなた自身から生み出されてくる処のものに生きられている(デュナミス~ヘクシス)~後期シェリングへの回答
16 否むことができぬものから、他から分かつ処のものにかかわられている(ポイオン~プロス・ティ)~キェルケゴールへの回答
17 この自分ではないものから生きられているものを毀とうとすれば毀とうとするほど、自身の了解を超えたものから、否むことができぬこの自分であるものに生きられている(ウーシア~コロボン、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ニーチェへの回答
18 この世界から自身が生みだされてくる処のものに生きられている(デュナミス~ヘクシス)~フロイトへの回答
19 自身の了解し得るものから生きられることで、自身の了解を超えた処のものを生きられている(ピュシス~アルケー、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ヴィトゲンシュタインへの回答
20 自身が生きられているものをどのようにも生きることができる(ペラス~プセウドス、シンベベーコス~ヒステロン、プロテロン)~ハイデガーへの回答
補足 自身が現に生きられているものと、意識することで生きることができるものから生きられている~量子力学における世界の十一次元解釈から(アルケー~ピュシス、ヒステロン、プロテロン~シンベベーコス、カト・ホ~エケイン)
(501頁)

 

実践形而上学命題詩集「不可知の雲」エミシヲ著

上巻(ペーパーバック版2700円、税込2970円、送料別、電子書籍版1000円)

下巻(ペーパーバック版2700円、税込2970円、送料別、電子書籍版1000円) 

 

 

 

 

 ※電子書籍版は低価格で利用しやすく、改定時にもすぐ反映されるのでよいですが、できればペーパーバック版をお勧めします。紙の本としていつでも手に取ることができる方がなによりよいことだと思うので。