地下鉄南郷七丁目駅を降りて、南にまっすぐ。そして、二つ目の自販機を曲がる。閑静な住宅街を少し行くと、何件かのパチンコ店や吉野家等の店が並び通りがぱっと明るくなってくるのだが、少し注意して歩けば、その手前の薄暗い曲がり角に、本当に控えめなまでの SunBranch Bar という看板がぽつんと寂しげに置いてあるのに気が付くだろう。


サンブランチバーは、その看板のかかっている建物の階段を下りたところ、つまりは地下にある。


この建物自体はかつては楽器屋だったらしいが、今では廃墟と化している。

私はその階段を手摺りにつかまりながら降りていった。           地下の扉を開くと、どうやらイベントが開催されているようで、ステージでジャズバンドの生演奏が行われていた。        

20人前後だろうか、狭い店内には人が溢れていた。


『ゆきちゃん!来てくれてたの。ひさしぶり』

バーテンのミキヤがすぐに水割りを出してくれた。

『ゆきちゃんが随分顔出してくんないからさあ、ボトル俺が飲んじゃおうかと思ったんだよ』


『ごめんね、最近仕事忙しくって…つーか、あいつきてるんでしょ』  

私は探りを入れる。


ミキヤは黙ってトイレを見やり、
『吐いてるかキメてるかどっちかだなぁ』とつぶやいた。


私はグラスをカウンターに置くと、人をかき分ける様にして店の奥のトイレへと向かった。




私がノブに手をかけようとした瞬間、扉がバンッと開いた。 


エタニティの強い香が一気に押し寄せてくる。
トイレから出てきたのは

痛んだ茶色い髪の男の子…、そして一緒に出てきた金髪の女の子の肩に腕をまわしている。


男の子の方と目が合った。

『…ゆきちゃん、来てたの』


『久しぶりだね、なっちゃん』



工藤渚は、女の子の肩にまわしていた腕をそっとほどくと、向こうで飲んでて、と促した。 

女の子は不機嫌そうに私をと渚を睨んだ後、離れていく。 



『ゆきちゃんの声が聞きたくなっちゃって、何度もかけちゃった』


『顔が見たくて?』私は彼に問う。

『そーだよ』


『トイレでヤリたくて?』


『そーだよ。遅かったじゃない』         私の皮肉は、彼には通用しない。         

『ゆきちゃん、世界で一番愛してるよ』      

渚は、私の耳元で更に囁く。


私は何も言わなかった。今日は金曜日だ。
ただ、渚のリップサービスを受け入れ、甘やかされたセックスがしたいだけだった。



私にとって、彼はそのためだけの存在だった。