記。
記憶。
憶えてる。
場所、
視線を横取りする
渇いた路地や鉄塔。
匂い、
甘くて、果皮の苦く
残るような後味。
感触、
繊細で柔らい
まるで瑞々しい草。
心地、
秒針の速度が、一瞬
落ちるような穏やかさ。
音も、声も、
綿毛のような無重力に
誘われる抑揚の尋ね。
すべて
憶えてる。
たとえ、
何十年前でも。
たとえ、
この命の前でも。
冷たさに怯えた
痛さもあれば。
胸の奥に温めた
時間さえも。
写真の鮮やかさには
ほど遠くても。
身体と細胞に
記憶が染みている。
いまから馴染む
指の動きも。
いつかの踏み出た
足の拍子も。
きっと、
いま弾んだ心臓も
記しを思い出した。
記憶。