前回は、「日本の音階」の歴史についてざっと眺めました。

呂音階、律音階、都節音階、田舎節音階、そしてヨナ抜き音階、ニロ抜き音階…いろんな音階の名前が出てきましたが、今日は、それぞれの音階をもう少し掘り下げてみます。

 

前回のまとめですが、

奈良・平安時代の音楽には、
呂音階…ド・レ・ミ・ソ・ラ・ド(全・全・全半・全・全半 のサイクル)
律音階…ド・レ・ファ・ソ・ラ・ド(全・全半・全・全・全半 のサイクル)

安土桃山、江戸時代の音楽には、
都節音階(陰音階)…ミ・ファ・ラ・シ・ド・ミ(半・全2・全・半・全2 のサイクル)
田舎節音階(陽音階)…レ・ミ・ソ・ラ・ド・レ(全・全半・全・全半・全 のサイクル)

そして明治以降、これまでのものも含めた(おそらく)音階の分類としては、
ヨナ抜き長音階…ド・レ・ミ・ソ・ラ・ド(全・全・全半・全・全半 のサイクル)
ヨナ抜き短音階…ラ・シ・ド・ミ・ファ・ラ(全・半・全2・半・全2 のサイクル)
ニロ抜き長音階(琉球音階)…ド・ミ・ファ・ソ・シ・ド(全2・半・全・全2・半 のサイクル)
ニロ抜き短音階(民謡音階)…ラ・ド・レ・ミ・ソ・ラ(全半・全・全・全半・全 のサイクル)

が提唱されました。

 

この記事では、音と音の高低差(音の幅)を、全音・半音などと呼びます。
 鍵盤で考えると分かりやすいのですが、鍵盤は黒鍵も含めてすべて半音ずつ並んでいます。半音×2=全音になりますので、半音は0.5、全音は1と言う風に捉えます。

 また、音階の右側に、カッコ書きで全・全半・全2…のサイクルという風に書きました。これは、音の幅がどれくらいで、なおかつ、どんなサイクルで音が上がっていくのかということを示しました。このサイクルが、あとで重要になってきます。
表示の意味は、全=全音、半=半音、全半=全音
+半音、全2=全音×2です。

 

さて、時代に合わせて合計8種類の音階がありますが、実はこの中には、移調したり、見方を変えたりすることで、使っている音や音の幅が同じものがあります。
 今回、それを3つの分類に分けました。

分類① 終止音系 :ヨナ抜き長音階、呂音階、律音階、田舎節音階、ニロ抜き短音階

終止音とは、西洋音楽で終わりを感じさせる音のこと。音階を下から順番に引いていくと、一番下の音の1オクターブ上のところで音の流れの終わりを感じることができるので、こう表現してみました。

【共通点、特徴】
ヨナ抜き長音階は呂音階と全く同じ音階。
主音A(ラ)のニロ抜き短音階は、主音C(ド)のヨナ抜き長音階と同じ音となり、Cのヨナ抜き長音階の5音目から始まる音階となる。
田舎節音階は、C(ド)を主音としたヨナ抜き長音階と同じ音となり、Cのヨナ抜き長音階の2音目から始まる音階となる。
ヨナ抜き長音階を主音C(ド)→F(ファ)に移調すると、主音をC(ド)とする律音階と同じ音となり、Fのヨナ抜き長音階の4番目から始まる音階となる。


 以上のことから、ヨナ抜き長音階、呂音階、律音階、田舎節音階、ニロ抜き短音階は、調の変化が必要な場合があれど、音の幅のサイクルが異なるだけで、類似した構造だということが分かります。

時代背景抜きに音だけで考えてみると、このように合致する点がありますが、時代の流れを考えると、呂音階(奈良時代前後)→律音階(平安時代)→田舎節(江戸)→ヨナ抜き長音階(明治以降)と言う風に、日本の歴史の端から端まで、五音音階が浸透している、時代を超えて脈々と受け継がれている音階といっても過言ではないと思います。

 呂音階や律音階を音の周波数に置き換えると、数Hz~数十Hzの誤差が生じることから、実は完全に一致するものではないようですが、それでも、楽器やリズムの違い、Hzに換算した場合の誤差はあれど、これはとても興味深いです。


 このように、同じ音でありながら、全音と全音+半音の音階のサイクルのスタートの場所が異なることで音階の響きが変わるのは、時代ごとの流行もあるでしょう。
 後の世代になればなるほど、人々はこの響きの違いを「新しいもの」として楽しんでいたのかもしれません。


分類② 解決音系 :ヨナ抜き短音階、都節音階

解決音とは、西洋音楽で次の音に行きたがる中途半端な音のこと。音階を下から順番に弾いて、一番下の音の1オクターブ上に到達しても、音の流れの終わりを感じず、ついその前後の音に頼りたくなる不安定さがあるので、こう表現しました。

【共通点、特徴】
主音A(ラ)のヨナ抜き短音階は、主音をE(ミ)とする都節音階と同じ音になり、Aのヨナ抜き短音階の4番目の音から始まる音階となる。

 

以上のことから、ヨナ抜き短音階と都節音階は、音の幅のサイクルが異なるだけで、こちらは終止音系とは別の、類似した構造だということが分かります。

 こちらも、終止音系までとはいきませんが、やはり近世以降、500年ほどずっと受け継がれてきた日本の伝統的な音階ということは十分言えるのではないかと思います。

 

分類③ 沖縄系 :琉球音階(ニロ抜き長音階)

 琉球音階は、ド・ミ・ファ・ソ・シ・ドで、全2・半・全・全2・半 のサイクルです。

 一見、解決音系のようにも見えますが、解決音系の場合、全2を最初にした音階は、全2・全・半・全2・半 または 全2・半・全2・全・半の2通りしかなく、いずれにも当てはまりません。また、沖縄はかつて琉球王国として日本とは別の歴史をたどっており、東南アジアの音楽の系譜があるとも言われていることから、琉球音階は日本の音階としては独自の音階であることが分かります。実際、この音階の音を聞いたら、すぐ沖縄が浮かびますもんね!



このように、現代の私たちにもお馴染みの五音音階は、古くは奈良時代前後から脈々と受け継がれている非常に伝統的なものだということが確認できました。

それにしても、楽器やリズム、言葉は違えど、1100年もの間、五音の文化が根付いているって、単純に考えてすごいですよね。たぶん、ドレミソラの音階でも、レミソラド、ミソラドレ、ソラドレミでは、同じ音でも雰囲気が変わる。
2
音も減っておきながら楽器やリズムなど多様に使う事で、時代ごとに様々な音楽が生まれたんだろうなぁ…。


日本の伝統文化には「空間の美」があります。

 生け花や絵画でも、西洋のように隙間や余白を埋めて表現するのではなく、隙間や余白も作品として含めてしまう。この音階も、5音であることで生まれる音の隙間をうまく使っているように思いました。

結論。

日本の五音音階は、なんと1100年物!
とっても伝統的なものだった!!


おことわり※これらの分類は、あくまで私Eminaがいろいろ勉強した中で「音」に注目して独自に
分類したものであり、未確認ですがおそらく楽典には載っていないものです。


あとがき

ここまで、音階についていろいろと話してきましたが、実は、このあたりは、小泉文夫さんという研究者が1983年に急逝された後、20年ほどあまり深く研究されてこなかったそうです。最近になってようやくそういった説に言及する研究者の方がちらほらおられるようで、私も今回こんなに深入りすることになると思いませんでしたが(笑)いまだにちゃんと整理されている分野ではない、というのが正直なところのようです。
そのため、他の音階との関連性や音階の見分け方については、おそらく音大論文レベルになるだろうと…(←ここで絶望)。

いやぁーこんなに時間がかかると思わなかった。取り掛かったのこの日ですよ。



毎晩調べまくって3度も文章イチから書き直して、2週間。

まさかとっ散らかってるちゃんと整理されていない分野だとは思いませんで、大変苦労しました(笑)

 でも、日本らしさを象徴する「五音音階」がとても伝統的だということは、なんとかかんとか、お分かりいただけたのではと思います。

次回、最終回!嵐の五音音階を探せ!(一番書きたかったとこ、ココ)