「お前と俺とでは立場がちがうんやぞ!」
そう言った彼の真意は。
「お前が俺の言うことなんでも聞くから、
それでもそばにいたいって言うたんやろ!」
やっぱり、そういうことだった。
「それやったら、お前が俺にむかつくのはおかしいし、
なんでもやらなあかんのちゃう!?」
もう忘れてしまったけど、
たぶんあたしはいつものようにだまったと思う。
そしてどうせいつものように
そのこと(なにも答えないこと)に怒られただろう。
「”知らん”ってにっぴーの嫌いな言葉言ったことはごめんなさい」
それしか言えない。
あたしが彼に絶対服従でないとそばにいられない契約なら解除してほしい。
確かになんでも言うこと聞くって言ったけど、
それはその場のノリというか、
まさかこんなんなんてわからなかった。
本当にこんなふうに、立場の違いをひけらかされるなんて思わなかった。
そこまでして一緒にいたくない・・・
でも・・・
怒ってないときの彼は楽しくて、
悩んでるときの彼は愛おしくて、
憎まれ口たたく毎日何度もの彼の電話が、
あたしの生活の一部になっていて・・・。
彼を失ったあとの生活を想像すると、
あたしはとどめの言葉を放てなかった。
自分からは去ることができない。
でも、彼の理想のあたしになることもできない。
だからもうこの判断は彼にゆだねるしかなかった。
絶対服従ではないあたしを見放すか・・・
言うこと聞かないけどこのままいてくれるのか・・・
あたしは、さっきの彼の、
「俺はお前なんていなくてもいいんやで」
という言葉へのショックで、
彼の許しを乞うような気の利いた言葉も、
今後どうしたらいいかも考えられず、
ただただ悲しいばかりで涙が止まらなかった。
泣いていることがバレないように、静かに涙を流しっぱなしにして、
鼻水も半端なかった。鼻をすするとばれちゃうからね。
その間も彼はネチネチ言っていた。
少しして彼の気が済んだのか、
このケンカを解決に導くために、
あたしに言葉を提案する。
「なぁ?なんでも言うこと聞くんやろ?
”ごめん”は?」
「ごめんなさい・・・」
「これからはなんでも言うこと聞く?」
「・・・」
「”なんでも言うこと聞きます”は?」
「8割言うこと聞きます・・・やなことは、態度に出すんじゃなく、”いや”っていいます」
「3人にしてやるで、1年以内にやってこい!わかった?」
「はい」
「ごめんね、きりちゃん。ほんとはかわいいって思ってるんやで?」
「うん・・・」
「泣いてるの?」
「泣いてない・・・」
「うそこけー!泣いてるキリもかわいいよ」
そうやって笑わせてくれて、
「じゃあもう、仕事始ってるし、戻りな」
「うん」
やさしくなって解放された。
一応仲直りってなったし、それはよかったと思えるんだけど、
やっぱり、さっきの言葉がひかかって涙が止まらない。
トイレに入りトイレットペーパーで涙と鼻水を拭くけど、
涙は止まらない。
いったん止めて仕事に戻っても、
仕事しながら涙があふれてきた。
あたしがそんなにショックを受けたなんて彼は気にすることもなく、
1時間ほどして電話があった。
トイレに行ってかけなおす。
「おう!仕事しとるかー?」
いつもの元気なにっぴーだった。
「さっきは怒ってごめんね」
「うん、あたしも態度悪くてごめんなさい」
「今○○したら許してあげるよ?
かわいいキリの声聞いたらchinkoたっちゃった」
えーーーーーー
そこからあたしは彼に合わせることを覚えていった。
演技やウソもうまく使うこと、それは彼に好かれるためじゃない。
怒ると手がつけられず、面倒だから。
仕事や生活を遮られ、自分のペースを侵されるから。
この日の彼のあたしを”いつでも切っていい”という言葉が、
あたしを少し変えた。
変えたというか、現実を見せてくれて強くしてくれた。
あたしのこといつでも切っていいと思ってる人に、
なにを取り繕う必要がある?
なんの本音を隠す必要がある?
彼は他の男とやってこいと命令した。
最初は意味がわからなかったけど、
考え方を変えれば、彼をそばに置いたまま
あたしは堂々と次の人を探せるということだ。
そして引き寄せというか、タイミングってすごいもので、
1通のメールがきた。
お久しぶり~!前に飲んだことあるんだけど、覚えてる??
ってね。