査定価格を見て、短く溜め息をついた。果たして18歳から今まで、いくらここに注ぎ込んだのだろう。脳裏を過るプロ野球選手の契約更改での名言の数々…おかしい…こんなことは許されない…。

いや、こんなもんだよな、こんなもん。あれだけ蒐集したCDやレコードも、売ってしまえば二束三文だ。市井の青年、もといおじさん(先日甥っ子を無意識に「おじさんだよ~」とあやした瞬間、私は名実ともにおじさんになったのだ)の思い出に付加価値はない。部屋中に積み上がったレコードやCDが戦闘力にも作曲能力に繋がるでもない。


17の時から未だに親交のあるナガオカと昨夏マイブラの来日を観に行った。ナガオカは音楽の趣味がドンピシャなので目ぼしいアーティストの来日情報をアナウンスしてくれる。かつてスワーヴドライバーのチケットを送ってもらったのに私が紛失してしまったのも今となってはいい思い出だし、チャールズヘイワードの来日が何故かドタキャンで代打灰野敬二になったのはいい思い出ではない(おのれヴ。ニールジ。パンめ)。

「いや、今回のYou made meはノイズ短かったね」「新曲謎だった」などと終演後、学生の頃より少しだけ高い食事を食べながらライブの感想と近況を話していた。

「ナガオカもCD売っちゃったんだ…」「『も』!?」「うん。あれ、確かに理詰めで聴く/聴かないか聴ける/聴けないで分けてったらほとんど要らないんだけどさ、売った瞬間の喪失感すごくない?」「わかる」「そのお金で替えのスーツ買ったとき、俺の中のロックが死んだんだよ」「まだバンドやってんじゃん」「いや、それくらいの抉られた感があったんだよ」「特に昔買ったやつはね」「そう。売り手の解説を聞いてから買い取ってほしい」「なんでも鑑定団みたいに」「じゃないと十代の俺が成仏しないよ」「さっきからロックが死んだり成仏したり忙しいな」

気づいたら私たちは30歳を間近に控えていたし、認めたくないが人生に於けるプライオリティも出会った頃と変わった。疲労度外視で一駅分でも安くと歩いた(バカなので途中でうっかりジュースを買う)のが通り沿いで右手を挙げるようになった(明日仕事だし…)。ユニオンのセールよりは為替を気にしているし、友達同士で使う信用と違う意味の信用も知った。

円盤よりもスペースが大事になってしまった。


空間と隙間あるいは穴は似て非なるもので、家に帰りかつてCDがあった空間に目をやると穴ぐらのような心の空虚さを感じてしまった。

くしゃくしゃにした査定書を開くと一枚だけ桁の違う査定額のものがあった。

大切なCDをうっかり売ってしまったことにその時気づいた。こぼれたミルクに泣かないでとは言うものの、釈明にも似た後悔が押し寄せた。


昔のブログにも書いたから同じことを書いても仕方ないのだが、クウチュウ戦は9年、トリプルファイヤーは7年以上付き合いのあるバンドで本当に大好きなバンドだ。思い出や思い入れを書き出すとキリがない、ヴェルタースオリジナルどころじゃない特別な存在だ。それぞれメンバーや音楽性は変わってきた。でもそれを恐れないという意味で皆オルタナティブな存在だと思うし、私にとって、赤木の言葉を援用するならば「原点であり最終目標なのだ」なのだ。

初めて「意気消沈」を聴いたときの頭をぶっ叩かれたような衝撃を。

初めて「スキルアップ」を聴いたときの膝から崩れ落ちるような感覚を。

客電が落ちた瞬間の昂揚を。終演後の「もっと」という渇望を。

まだ味わえるし、もっと味わいたい。

2/24(日)東高円寺U.F.O. club
【Overnite Sensation!!!】
OPEN/START 18:30/19:00
adv/door 2500yen/3000yen(共に+1d)
出演
Emily likes tennis(O.A)
Koochewsen
トリプルファイヤー

因みにクウチュウ戦のプログレは家にあと3枚くらいあった。よかった。
口の中にのど飴を放り込み、舌で腫れた咽に押し当てた。誕生日前後に拗らせた風邪はなかなか治らなかった。そういえばカートコバーンとかジムモリソンとか、追い抜いちゃったな。ハロー、どれくらいひどい?とひとりごちて咳き込む。

3年ほど続けたバンドを辞めることになった。

自分から、とも言えるしバンマスの方から、とも言える。僕は昔から何かを辞めるのがとても苦手で(「続けることの美学」だなんてカッコいいものではなくてただ単純に優柔不断なのと人間関係が破綻するのが怖くてなかなか言い出せないだけ)結果的に傷を深めることばかりだった。今回は幸い喧嘩別れでないので今後も主にライブハウスで会ったりするのだろう。たまには飲みに行くかもしれない。

2012年の初頭だったか。出番が差し迫っていたため神楽坂の汚泥のようなライブハウスに仕事終わりに駆けつけると、後にカタカナを結成して曇ヶ原のアルバムのエンジニアをしてくれることになったミツビシがフロアに全裸で横たわっていた。(今日出演しなきゃ良かった…)と思いつつ自分たちの出番を終えて脱力したまま最後のバンドをぼんやり眺めていた。そのベースがショウタくんだった。
終演後ぽつぽつと言葉を交わした(トランスレコードとかの話をしたような気がする)。お互い下を向いたまま。

その年の冬に埼玉でライブをして終演後ショウタくんにヤミニさんが抜けてしまうので曇ヶ原でギターを弾いてくれないかと声をかけられた。

事前に動画を観ていてカッコいいなと思っていたので嬉しくて加入を決意したけど、まったく曲が覚えられなかった。エミリーは自分が作ってるし「AからZまで1回ずつ」みたいな曲構成だから実は覚えやすいんだけど人の作る曲でしかも構成が繰り返しや○回目は拍数が違うなどとても複雑だった。引継ぎみたいな感じでヤミニさんと半年くらいツインギターでやったので何とか覚えられた。

以後ヤミニさんが抜けたりあつみちゃんが一時抜けたりいろいろあったけど、バンド掛け持ちのまま気づいたら3年くらい経っていた。何とかアルバムを出せて、レコ発も出来た。

ヤミニさんが抜けた後くらいから、バンマスであるショウタくんが考えた1を2にも3にも膨らます、或いは0.5のアイデアをうまく1に持っていくのが自分の役割だと思っていたけど、皆の生活のリズムが合わず活動が思うように行かなくなるにつれ作曲に能動的になれなくなってしまったこと、ショウタくんの1を1と思えなくなってしまったことが原因と言えば原因だろうか。個人的には石島さんが抜けることが決まった時点で自分も続けるのは難しいなと思った。たまたま観た藝祭の動画の石島さんのドラムがとてもカッコよくて印象に残っているところにショウタくんに誘われて加入を決意したのがそもそもの経緯なので。

19のときからやってたエミリーとは違った楽しさもあったし、キツさもあった。空中分解寸前まで行って何とかリリースしたアルバムは思った以上に売れなかったけど、好意的でどこかポエティックなブログのレビューをたくさん見つけて、個人的にはとても嬉しかった。そういう人のためのアルバムだったんだと思う。新曲を入れられなかったのが心残りだ。

うまく説明できないけど曇ヶ原での活動はとても良い経験になった。エミリーの方ではほとんど弾かないコード弾きやアルペジオなど新鮮だった。何より恐ろしく手練なバンドメンバーと音楽の話をするのがとても楽しかった。メンバーとヤミニさんとミツビシに感謝している。今後の益々の…という宴席の〆のあいさつになってしまいそうだ。

最後にアルバムのギターの解説をしようと思う。加入する人の為に笑


1.うさぎの涙
通称「10拍子の曲」。作ってからは毎回ライブでやっていたと思う。ヤミニさんが居た頃は僕が単音リフ、ヤミニさんがパワーコードだったけど抜けた後はアレンジし直して今の形になった。ライブでのストロークはシンコペーションをうまく使い時もあれば全部ダウンピッキングで弾き倒すときもある(腕が死ぬ)。疾走感のあるマイナーコードと単音リフに移行後のキーボードとの和音が気持ちいい。
歌メロのクリーントーンのギターは透徹な気持ちで。
歌パートは長いお休みになって「やがて」のところからディレイを深めにかけて高音のリフ。GLAYのwinter, againのPVみたいな風景を想像している。
その後はギターのみで3拍子。なぜかずっと3拍4拍3拍3拍で弾いていてレコーディングのときに指摘されて「え?え?」と思いながら直した。
スネア一発のフィルインが入った後がカタルシスのあるパートに。ジミヘンが弾きそうな変型Emのフレットずらしていくのと、1弦と6弦のみ押さえるコード(?たぶんピッチシフター使った方がいい)を繰り返している。Emキーのソロみたいなのを織り交ぜてもいいと思う(そういう気が利いたソロがまったく弾けない)。
ギターのみのリフ以降はこのアルバムで一番好きかも知れない。ロバートフリップになったつもりで。

2.午前三時
イントロのキーボードがおどろおどろしいのでそんな気持ちで低くうねるように。
ギターのEmから叙情的なパートに入るのでここのアルペジオは指板の方を弾いてトーンを落としている(仕組みはわからないけどそうやったらそう聴こえる)。
ハネた7拍子のところは繰り返しになるとストロークが変わるので注意を。自分でも拍数がわからなくなる。
キメの後はディレイ+歪みで単音の短いソロ。チョーキングは顔で弾く。その後のハイポジションのコード弾きが好きだ。
歌が入ってからはカッティングをうまく使いながら。
終盤のメインリフのベースとのユニゾンはゲームのBGMのような気持ちで弾いている。

3.無風地帯
唯一のショウタくんとの共作。どこが僕でどこがショウタくんかはめちゃくちゃわかりやすいと思う。笑
イントロはマリリンマンソンのアンチクライスト~1曲目のテンションを意識。そのアルバムしか聴いたことないけど。
ギターのみの導入後はBPMをかなり落とすので意外と難しい。あとハンマリングオフで音量が出にくいのでかつリズムを揺らさずに弾くのが大変だった。
サビはクリーンのコード弾きなので特にないけどBm→A →DのDだけ気持ちタメてダウンストロークもゆっくりめに弾くようにした。
歌の後はジェームスチャンスっぽくなるのでいかに鋭利なカッティングをするかが大事。レコーディングの際は試行錯誤した結果弦のスクラッチ音がインダストリアルな響きになっている。再現方法は知らない。
イントロのオクターブ上パートはハンマリングプリングが握力を要する。多少はバタついても味が出ると思う。

4.鉛色
9拍子の曲(分解すると2拍×3+3拍)。ナウシカに出てくる蟲の羽音みたいなキーボードの音が好きだ。入った時点であった曲だけど当時は単音弾きでユニゾンだった。4人になってからはエッジィなコード弾きにアレンジし直した。ブレイクが完璧に決まると気持ちいい。
ピアノの間奏の後はリバーブをかけて白日夢の様な気持ちで。
ハイハット2発のあと大サビになるけどコード弾きに小指で高音を足すよくわからない7thっぽいコードなので耳を澄ませて聴いて欲しい。
アウトロはメロコアっぽい高音オクターブから展開させていくのが自分の中でかなり新しい試みだったので出来てよかった。

5.砂上の朝焼け
イントロはAmからオンコードでDmに繋げるのだけどしっかり押さえて気持ちよくジャガジャーンと鳴らしたいところ。イメージとしてはB'zのもう一度キスしたかった。
歌始まりはAm→Gだけどただストローク1発だと芸がないのでsus4をアルペジオで混ぜている。
ハードロック部分に移行する直前はよく使う6弦3弦のみのコード弾き(たぶん元ネタはドイツのオルタナバンドBlackmailのmoonpigsという曲)。
後はアレンジを変えつつも長いハードロック部分。ギターソロっぽいところは正直録音技術により弾けているけどライブだとほとんど弾けない…笑 あと同じフレーズをずっと繰り返しているとトランス状態になる。
歌に入るところは歌を邪魔しない単音ギター。歪みはかけるけどストロークを弱めにして遠くで鳴っているようにしたかった。途中からはアドリブ。

6.雪虫
歌ものなのでシンプルに。歌になるべく寄り添って「ギタリスト」的なエゴは出さないようにした。トーンを全体的に落としてもいいかも。というかいっそアコギでも。ハイポジションのコードが澄んだ感じがしてよい。
サビの単音リフがハンマリングオンオフで意外とモタらずに弾くのが難しい。
後は回数間違いだけ気をつけて。


12/17(土)の高円寺スタジオコヤーマが最後のライブになるので是非。
2008年、大学1年の終わりに組んだバンドは27歳になってもまだやっている。コベインはショットガンをつきつけたっていうのに。
学生時代のバンドサークルの人たちは皆就職したり結婚したりでバンドを辞めた。

明日初めて全国流通のアルバムが出る。結成8年。野球だったら戦力外だし相撲だったら廃業届けレベルだ。

延べメンバー数は10人以上。主に自分の人間性の問題でもう会えない人や合わせる顔がない人もいる。オリジナルメンバーは自分だけだ。

デヤン…聞こえるか?「CD届いたけど聴いてない」じゃなくて感想聞かせてくれよ。セーナちゃんはドラムやってるのか?

ジュース…まっとうに生きてくれればそれでいいから。

内海くん…まっとうに生きてくれればそれでいいから。


2010年の年末頃。当時のベース和泉くんと部室でバンドを今後どうするか話をしていた。
「やっぱり山田さんのボーカルがひょろひょろだからダメなんすよ」
「鍛えるしかないのか…」
「別の人入れましょうよ。ゼミの杉浦さん(美人で無口)とか」
「確かに綺麗で何考えてるかわかんない人がヘンリーロリンズとかマイクパットンみたいなボーカルだったら面白いね」
しかし杉浦さんは地銀にUターン就職が決まっておりバンドは出来ないと断られた。そもそも2年間で事務的な会話以外一切していない男にいきなりバンドに誘われたら普通は断る。

杉浦さんのその後は知らないしデブリル(あだ名)のその後も興味ないし留年王・石川先輩が今どうなってるのかも知らない。泡沫哲学ゼミよ。

「獣-ビースト-(当時からこう呼んでいたわけではない)、なんかいつも一人でスタジオ8時間くらい入ってるけど何やってるのかね」
「さぁ…」
「見た目セドリックみたいだし入れようよ。At the Drive-Inみたいなバンドにしようよ。あと武井くんすぐフレーズ忘れるからT-DRAGON(当時からこう呼んでいたわけではない)にドラムやってもらおうよ」

そうこうして獣-ビースト-とT-DRAGONが加入し、僕がボーカルをしていた頃の曲の大胆なスクラップ&リビルドが始まった。気持ちはThis heat。4人編成になって初めて出来た曲は「パーマネント学生」という曲だった。当時3月くらいで就職を間近に控えた自分と獣-ビースト-の髪型をかけていたような気がするが特段メッセージはない。あと既にAt the Drive-Inでなくなっている。

和泉くんの無茶ぶりは苛烈を極めた。嫌がる獣-ビースト-に謎のコントを強いたり、ブラストを叩いているT-DRAGONに「その状態でライド叩けんかなぁ?」と言ったり。僕が持ってきたフレーズも独特の引き笑いをしながら「そのリフ、クソダサいッス」と容赦なくボツにした。

そうこうしているうちに和泉くんは関西の大学院に進学が決まり脱退となってしまった。影の指揮官を失い大丈夫だろうかと心配したが普通に曲は作れた。後任の内海くんも問題なかった(初めのうちは)。

しかし20歳を迎えた内海くんは次第にアルコールの海に溺れ一人マイ・ロスト・シティー状態になった。奇行の数々はメンバーを苛立たせた。

2013年、レコーディングが終わり救急車事件を経て泣く泣く首をぞかいてんげる。内海くんに抜けてもらった。

そこから将棋部先輩が入って、もう3年になる。メンバーチェンジなしでこんなに続いたのは初めてだ。

超仲良しってわけではないけど、みんな才能が(いろいろと間違った方向に)横溢していて、一緒にバンドをやっていて楽しい。一方で仕事は


とにかく心血注いで作ったアルバム『全業オープン』が明日発売される。無茶苦茶なまでにリフを詰め込んだ、カッコいいのに馬鹿という形容矛盾を成り立たせた珍盤だ。

いい歳こいて何やってるんだよと言われればそれまでだけど、ロマンチシズムの最後の欠片に縋るしかないし、まだ青春みたいな何かにケリをつけられないんだ。

物語あり、メッセージなし。モンスターファーム2で何が出てくるか教えてくれ(チャッキーだと嬉しい)。


ロマン溢れるGIG
○7/20(水) HMV渋谷record shop
『全業オープン』発売記念インストアライブ
20:00~ 観覧無料
アルバム購入者にチェキ&サイン会あり

○7/31(日) 秋葉原club GOODMAN
ハリエンタルラジオプレゼンツ『WOW WAR TONIGH太』
13:00~ Adv:2000円+1d
出演:otori、トリプルファイヤー、Emily likes tennis
トーク:ハリエンタルラジオ