3年ぶりのリーグ制覇も、阿部のバットがもたらした。「特別に意識はせず平常心で打席に入れた」と、二回の先制弾などで計2打点。主将、4番、正捕手-。これ以上ない重責を見事にこなし、優勝の立役者は歓喜の輪の中心にいた。
今春のキャンプ。原監督は3位に終わった昨季を振り返り、こう周囲に漏らしたという。「昨年は失敗した。(阿部)慎之助を下(位打線)に置いてしまった」
大役を一手に担うことは、阿部の親分肌をくすぐった。今季目標にした「汗」を体現するように誰よりも汗をかいた。「みんな助けを求めている。簡単なことを簡単にいってあげたい」と村田やボウカーが不振とみると、過去の実績に関係なく助言。試合中はグラウンド上の「指揮官」だった。ピンチに浮足立つ若手投手には大観衆の前でも大声で叱責。厳しさと優しさを使い分け、チームをまとめあげた。
中大時代。鳴り物入りで入学したが、すぐには結果を出せなかった。だが、日本代表や主将を担っていくことで気持ちのムラが減り、飛躍につなげた。だからこそ今夏、中大の宮井勝成総監督(86)は電話で檄を飛ばした。「今年あたりタイトル取らないといかんぞ」。チームの牽引(けんいん)役として、恩師はプロ12年目で初めて打撃タイトルの奪取を課した。主砲はその重圧すら力に変え、安打、本塁打を量産、三冠王すら視界に入る。
「(重責は)やりがいだし、負担に感じたことはない」。一時、4番や正捕手を外れても、最後は定位置に阿部がいた。「尊敬の気持ちで見ている」-。原監督の阿部への評価には、畏敬の念すら感じられる。「みんなで頑張ってきたからね」と阿部。歓喜のビールかけでナインから感謝の気持ちとともに、優勝の美酒を浴びた。