天国の師匠に捧げる勝利だった。勝ち名乗りを受け、土俵下で水付けを待つ稀勢の里の目は、赤く充血していた。7日に師匠が急死。言葉にできない苦しみ悲しみをこらえて迎えた初日でつかんだ白星。あふれる思いがうっすらと瞳に現れた。報道陣から「先代への思いが涙に?」と問いかけられると「うん、まぁ…、思い出したらきりがない」と声を振り絞り、再び目頭を熱くした。
とてつもない厳しい状況での大関取り。土俵に上がるとファンの声に後押しされた。土俵入りから大きな拍手が起き「頑張れ!鳴戸部屋」のプラカードを掲げる観客もいた。「親方のためにも頑張れよ!」との声援も上がった。熱い激励を受けた立ち合い。得意の左四つ右上手の体勢になると、力強く土俵際まで追い詰めた。過去対戦成績9勝9敗と苦手の旭天鵬に、最後はなりふり構わずしがみついて寄り倒した。「負けが多いイメージ。何とか焦らずいきました」と胸を張った。「今は場所(中)だから相撲に集中している。やることはいつもと変わらない」と稀勢の里。悲しみを力に変え、大関取りの一歩を踏み出した。