*運命の出会い ➁
この時はまだまだ、自分ではなく、人が基準で中心だった。
自分1人のときは、なんの条件もなく自分を受け入れられたが、人と接している時は、相手の反応がひどく気になった。
少しでも『よくない兆候』だと自分が判断することが起こると、苛立ったり、極度に不安になって、紛らわすために食べ物を買い込み、胃に詰め込んだ。
過食症は随分と頻度が少なくなっていたものの、完全には治っていなかった。
望まないことが起こった時の『嫌な感じ』は、ひきこもりの間、何度も襲われた独特で、強烈な感覚だった。
私はその感覚を恐れた。また元の場所に引きずり戻されそうだったから。
バイトの勤務時間は、最初は短時間だったが、かねてからの希望だった1人暮らしをする為に、時間を延ばすことにした。
もろもろの初期費用の大部分は両親に借りて、少しずつ返済することにしてもらった。
1人暮らしは、不安もあるが、解放感も大きい。
自分の機嫌が悪くても、誰かに八つ当たりしてしまう心配がないし、まだ残っている過食癖が出た時にも、食材を隠す必要がなかった。
1人の家は、すべてを自分で決めることが出来る、唯一『堂々と』していられる場所だった。
それでも依然、人間関係は緊張が抜けないままで、『本当にこのまま一生、働き続けることなんて出来るのだろうか』という不安が絶えず襲った。
その度に必死で打ち消すものの、精神的な疲労感が募る日々だった。
そんな自分を叱咤激励するときも、
「これくらい、みんな当たり前にやっている」
「生きていくなら、普通にできなくちゃいけない」
と、自分と周囲を呼吸するように自然に比較していた。
私は段々と、1人で生きていくことに疲れ始める。
そんな能力は自分にはないと、息苦しくなる一方だった。
そんな中、ある人と出会う。
いや、実は既に出会っていた。
同じ職場の人で、数少ない男性だった。
業務中には殆ど関わりはなく、朝礼の時に少し見かける程度の人だ。
それが夏頃、急に話す機会に恵まれた。
最初はひと言、ふた言、話す程度だったが、セッティングされたように2人きりで仕事をする場面が訪れたり、急速に仲が縮まっていった。
話すうち、5歳くらい上だと思っていた歳の差は、その倍あったことが判明したが、元々年上が好きだった私にまったく抵抗がなかった。寧ろ好ましかった。
少し変わっているかもしれないが、私は背が低くて、かつ筋肉質な人が好きだった。顔が濃ければ言う事はない。
彼はその好みにどんぴしゃだった。
もちろん、外見はあくまでタイプ程度で、そういう人でなければ付き合えないとか、逆に当てはまればだれでもいいという話ではまったくない。
だけれど彼は、外見が好みな上に、中身まで理想的だった。
優しくて、忍耐強くて、笑顔が温かかった。
年上ぶることがなく、いつでも対等に接する。
交際するまでは早かった。話すようになって、三か月と経っていなかったように思う。
交際してからも、彼の寛大な態度はなにも変わらなかった。
変わらないどころか、より深くなっていく。
まだまだ精神が不安定だった私が荒れ狂っても、生真面目に、律儀と言えるほど受け入れてくれた。その上、私のことが好きだと言い続けてくれた。それが何より嬉しかった。
私以外にも、私のダメなところ含めて、丸ごと受け入れてくれる人がいるのだという、その事実が、堪らなく嬉しかった。
他の人なら、とっくに逃げ出していただろうと、今も思う。
夫婦になった今でもそうだが、彼は私にとって、夫であり、恋人であり、親友であり、保護者でもある。
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