幼稚園の年中の頃

 

字が書けるようになって初めて書いた

七夕の短冊に

わたしは嘘の願い事を書いた。

 

 

「セーラーマーズになりたい」

 

 

 

本当は

セーラーマーキュリーになりたかった。

 

優しくて頭がよくて、

水色が似合う亜美ちゃんが好きだった。

 

 

マーズは意地悪で怒りっぽくて嫌いだった。

 

だけどわたしが短冊に

本当は嫌いなマーズと書いたのには理由があった。

 

 

自分は髪が黒いから

マーキュリーにはなりたくてもなれない。

 

 

だから妥協して

セーラーマーズになるしかない。

 

 

4歳なりにそう考えた。

 

でもそれは本当の願い事じゃなかったから

わたしは悲しかった。

 

 

 

他のみんなは

髪色のことなんてなんも気にせず

 

セーラームーンになりたいとか

セーラービーナスになりたいとか

 

本当になりたいものを書いていたのに。

 

わたしもマーキュリーって書けばよかったのに

それができなかった。

 

 

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あれから30年がたって

同じようなことが起こった。

 

 

わたしは本当に心の底から望んでいることを

正直に書くことができなかった。

 

 

それがもし、

自分の努力や行動次第で叶いうる望みなら

書けたと思う。

 

 

なぜならそれは目標だから。

 

 

だけどわたしは

そっちの種類じゃない望みを

言葉にできない。人に言えない。

 

 

あまりにも切実すぎて

叶わないことがこわすぎて。

 

 

もしそれを、わたしの望みとして

外に発表してしまったら

 

もしそれが叶わなかったときに

その先の望みも、芋づる式に消えるのだ。

 

 

わたしはそこまで想像してしまって

想像するのを止められなくて

 

その望みごと、

はじめからなかったことにしてしまう。

 

 

 

そんなところが30年も変わってない。

わたしは。