臣「か…   か …たずけたよっ!」

花「…本当?!」

臣「…本当!!」

花「水拭きした?」

臣「した!!」

花「…本当は?」

臣「…      忘れた

 ごめんっ!!!
 頭ん中、それどころじゃなくなって…
 すっかり忘れた… 」

花「え〜っ…   牛乳いちばん嫌なのに…

 痛…  っ… 」

臣「花…  大丈夫か? 腰?」
 
花「あ…   それ、凄い楽かも…」

臣「ここ? 病院、もう少しだから…

 ごめん…  帰ったらちゃんと
 片付けるから…
 もう、牛乳のことは忘れよ? な?」

花「うん…
 そうだよね…
 あたしがいちばん嫌なの知ってるのに
 乾くと最悪なのに
 それを忘れちゃうくらい
 焦ってたんだよね…
 それだけ、慌てて来てくれたんだもん

 帰ったらちゃんとやってくれれば
 大丈夫…    もう、気にしない…」

臣「微妙に責めてるよね? 笑」

花「え?  だって〜
 だから、何回も言ったんだよ?
 絶対忘れると思ったから… 」

臣「うん、ごめん…
 もう許して? 」

花「怒ってないよ?
 ちょっと、イジワルしただけ 笑」

臣「ったく…    こんな時に…
 
 おーい ママがイジワルしたぞー 笑
 
 元気に出て来いよ〜
 で、パパを助けてくれ 笑」
 
花「フフ   笑
 あと少しで、会えるね… 」




優しく腰をさすりながら
お腹に向かって
話しかける臣

その手は凄く温かくて
それだけでスーッと痛みも
気持ちも落ち着いてくる

反対の手でギュッと
あたしの手を握ってくれて

その瞬間、じわっと
涙が溢れ出した



春を産んだ時…

あの時…


どれほど、この手が恋しかったか

臣に手を握ってほしくて
花…って呼んでほしくて

何より、傍に居て欲しかった



臣「…   今度は傍に居るから
 ちゃんと、この手…   握ってるから…」

花「…    臣」

臣「だから、泣くな…  笑
 安心しろ…  

 って、俺が泣いちゃうかもなぁ〜 笑」

花「フフ   笑  そうかもね… 笑」




臣の言葉に胸が温かくなる


キューッと段々と強くなる痛みにも
臣が隣に居るだけで
落ち着いて耐えられた









病院に着くと直ぐに診察を受けて
分娩室に移動した

臣とはここでお別れ…


分娩台に上がると
カチャカチャと色んな金属音

この音を聞くと一気に緊張感が増す


こんなご時世だから
臣は立ち合うことができない…

だけど、すぐ隣の部屋で
赤ちゃんが産まれるのを待っててくれてる


すぐそこに居てくれるだけでも
心強い…



段々狭まる陣痛の間隔と
強くなる痛みに
緊張しながら
必死で呼吸を整えて、平常心を保つ



そんな中、優しいオルゴールの音色が
部屋を包み込んだ


これ…
お願いしてたやつだ…



ここの病院はお産に関する
事前の希望を何個かアンケート用紙に
書いて聞いて貰える

その中でも
流して欲しいBGMを
あたしはお願いしてた


オルゴール調の優しい音色で…

あたしの好きな曲ばかり



だけど…


何かがおかしい…

あたし、こんな的確に
書いてないんだけどな…



助「登坂さーん
 今、痛みありますか?」

花「あ…  今は落ち着いてます…

 あの…   この音楽って… 」

助「これね 笑
 ご主人に渡された物を流してます。
 こちらでも用意してたんですけど
 ご主人がこっちを流してくれって… 笑

 ご自身で編集なさったようですよ?
 
 あ、用意できたかな?」

花「え?」



そんな会話を助産師さんとしてると
扉が開いて
ガウンと帽子にマスク姿の臣が
部屋に入って来た



臣「サプラーーイズっ!」

花「えっ?! なっ 何してるの?!
 何その格好… 」

助「院長が立ち合いを許可なさって…」

花「嘘…     え?
 どうして…?」

臣「必死に頼み込んだ…
 春ん時、おまえ一人ぼっちだったろ?

 だから今回は、傍に居たくて…」

花「…臣
 ありがと…    」

臣「どお? 俺が厳選した
 三代目remix   笑
 オルゴールバージョン!! 笑」

花「ん? すっごい良いよ 笑
 大好きな曲ばっかりで
 嬉しい…      まさか仕事しないで
 これ作ってたの??」

臣「仕事もしてたよっ! 笑」

花「フフ…    笑  そっか…

 本当にありがと…
 がんばるね…

 ーーッ  フゥ…    」

臣「痛むか?! 」

花「ンーッ…   
 多分破水した…  」

助「ごめんなさい ちょっと見せてね?
 
 だいぶ進んでますね…
 2人目だから
 やっぱり早いですね

 今、先生呼ぶから
 それまでいきまないで…

 フーーッてゆっくり呼吸して下さいね」

花「…はい

 フーーーッ…    スーッ フーーッ」

助「破水したから、ここから早いですよ…
 ご主人、
 しっかりサポートして下さいね?」

臣「あっ はいっ!
 
 花? 大丈夫か?
 落ち着いて…
 ゆっくり…    ゆっくり…」

花「ンッ…   痛ーー…
 フゥーーー…     ンッ 」

臣「花っ!」

花「ンーーーーッ  フゥーーー…」





破水してから
どんどんと痛みが強くなって
呼吸するのも辛い…

臣が傍に居てくれるだけで
凄く心強いけど
返事をする事すら出来ないくらい
痛くて…

春の時は、全てが初めてで
何も分からないぶん
とにかく必死だったけど
今回はまた違う感じで…

必死なのは変わらないけど
痛みや苦しさは
何倍も強く感じる…


半分意識が飛びそうになる中
臣の声と握ってくれる手の感触で
何とか耐えられる…



もうすぐ…


もうすぐだよ…


頑張って…   ママも頑張るからね…





先「よーし、もうちょっとですよー

 あと少しっ 頭出て来てるよーっ

 頑張ってっ!! 

 いきんでっ!!!」

花「ンーーーーーーーッ!!!」

先「はいっ 頭出たよーっ

 もう、いきまないでねーっ」

助「息吐いて…  
 もうすぐ…   頑張れっ」

臣「… 花っ

 頑張れ…  っ  …頑張… れっ」





『オギャーーーーーーーーッ』
 


花「ハァ…  ハァ ハァ…」

臣「花…    

 産まれた‥.   産まれた…よ

 ありがとう…   本…当に…  」



元気な泣き声を聞いて
一気に身体の力が抜けるのと
同時に

臣の顔を見たら一気に涙が溢れた


やっぱり

臣も泣いちゃうよね…



助「おめでとうございます!
 元気な女の子ですよ〜っっ」

臣「… 女の子…

 花…  女の子だって!」

花「… うん

 可愛い…    可愛いね」

臣「…っ  始めまして…

 パパだぞ…        ン…  ック…」


臣が指を出すと
シワシワの小さい手で
ギュッと握ってるのが分かる





泣きすぎてぐちゃぐちゃだけど

本当に嬉しそうに

優しい顔で微笑んで…

この瞬間の臣の顔を

あたしは、一生忘れないと思う








可愛い 可愛い

小さいプリンセス…


ママとパパの元に
産まれて来てくれてありがとう…