佐伯さんの後ろに
身を隠すように

ゆっくりと待ち合わせ場所に
足を踏み入れた

佐伯さんが働く弁護士事務所




今日は、哲哉くんと
会う日…


奥の部屋に入って
顔を上げれば
久々に見る彼の姿に
体が硬くなる…




ーガタッ




ビクッ

佐「大丈夫ですか?

 無理しなくていいですよ…」

由「だ…  大丈夫です」



哲哉くんが、立ち上がる際に
上がった物音に
ビクッと体が跳ね上がると
すかさず佐伯さんが
声を掛けてくれた


大丈夫…


ただ、話すだけだし…



哲哉くんの顔を
恐る恐る見れば、彼は少し不安そうに
私の目を見て口を開いた




哲「…    由香

 本当に、悪かった…
 
 今まで沢山傷つけてごめん…」

由「…。 」


そう言って…

深く頭を下げる彼に
何も言葉が出ない…



哲哉くんの向かい側のソファに
ゆっくりと座ると

少し離れた所で
佐伯さんと、哲哉くんの弁護士さんが
待機してる




由「…  頭 上げて…?」


哲「由香…

 本当に‥  本当にごめんな…
 
 おまえを…
 泣かせてばっかりで
 怖がらせてばっかで…」

由「私は…


 私は…   本当に哲哉くんの事
 好きだったよ…

 幸せになれるって
 思ってた…

 だけど、あなたは…   」

哲「俺は…
 自信がなかったんだ…

 おまえを、繋ぎ止めておくのに
 必死だった…

 力で、恐怖で抑えつけて
 それで安心したくて…   」



哲哉くんは、それだけ言うと
私の手元に視線を落とす…



すると、フッと笑った




哲「…   よく、似合ってんな…

 俺が、あげたやつなんかより
 ずっと良く似合ってる…

 やっぱあいつは、凄えな…  」

由「… え? 」

哲「…指輪だよ…

 隆二に貰ったんだろ…?

 
 由香…     俺には出来なかったけど
 あいつは大丈夫…
 
 絶対に、おまえを大事にしてくれる…



 …      隆二と幸せにな…  」



由「哲哉くん…?

 どうゆう…意味?」


哲「… もう、いいんだ…

 隆二にも話した…

 条件は、取り消すよ…
 苦しめて悪かった…

 

 今は心から、おまえの幸せを願ってるよ…

 由香…     自由に生きてくれ…  」
 


由「…     分かっ….た」

哲「最後くらいは、
 かっこよく身を引くよ    笑」




哲哉くんは、最後に笑って
頭を下げると
弁護士さんと一緒に出て行った






哲哉くん…


あなたを許す事は
まだまだ出来そうにないけど

不器用で、天邪鬼なあなたが
心から謝ってくれたのは
ちゃんと伝わったよ…


あなたと過ごした時間は
私にとって
地獄のような日々だったけど

だけど、幸せな時があったのも
嘘じゃないから…










開放されたんだ…

やっと…


体の力が抜けて
大きく息を吐いた




佐「…    彼、父親になったみたいですよ

 複雑だとは思いますが…

 荒木さん以外に交際していた
 女性と入籍したようです…

 子供が産まれて、
 思う事が沢山あったんでしょうね…」

由「…  そういう事… だったんですね…」

佐「荒木さん…

 行かないんですか…?」

由「…    行きます

 もお、いいんですよね… ?」

佐「はい…

 お二人を、縛るものは
 もう何もありません… 」






行かなきゃ…




早く…




行かなくちゃ…










外に飛び出して


ひたすら走った…





無我夢中で…










ねえ…     


隆ちゃん…






早く…     会いたいよ…