隆ちゃんは
哲哉くんと、私にこの先会わない事を
条件にして和解した…


佐伯さんから
その話を聞いた時
体の力が抜けていくのを感じた…


隆ちゃんには

もう会えない…

だけど…
彼が必死に悩んで
色んな事を考えて出した結果…

本当に辛かったはず…


沢山の葛藤があっただろう…



隆ちゃんの思いや考えを
理解するのに
時間はかからなかった


これで、いい…


彼の歌を守れるなら

彼が歌い続けられるなら

私は、全然平気だよ…


隆ちゃんの夢を
これから先もずっと
応援する…

たとえ傍に居られなくても
私はずっと
あなたの事を見守ってるね…










数週間経って
仕事にも復帰した…
しばらくは慣れるのに必死で
忙しい日々を送る…

3月は、年度末って事もあり
進級の準備や
片付けなどで残業つづき

体は疲れるけど
この忙しさは、ありがたかった

寂しさを
忘れられるから…


今日の天気は雨…


朝からずっと降り続く雨に
少しだけ
気持ちが暗くなった…


すっかり帰りが遅くなって
雨が降る夜の街を
ゆっくりと歩く


賑やかな東京の街並みも
今となっては慣れっこで
つい最近まで
キョロキョロしてた自分が
嘘のようだ…



隆ちゃん…


元気かな…


私は、元気だよ…








信号待ちで耳にイヤホンをはめると
スマホを開いて
プレイリストを再生する


一度だけ、隆ちゃんが歌ってくれた曲



寂しい時
辛い時
眠れない時…
これを聴くようにしてる


幸せだった
あの時を思い出して
隆ちゃんを少しでも近くに
感じられるから…








会いたい…



会いたいよ…



隆ちゃん…





一度吸ってしまった
彼の甘い蜜は
やっぱり私の中で
消化される事はなくて…


どんなにかき消そうとも
ふとした瞬間に
湧き上がる思い…


会いたい気持ちを
ただ、ひたすらに押し殺して

こんな雨の中でも
沢山の人が行き交う街中を
一歩 また一歩と前へ進んだ…



その時だった



後ろから腕を掴まれて
驚く間もなくひっぱられる…

咄嗟に振り返れば
傘を深くさして
顔は見えないけど…


だけど…




直ぐに分かったよ…


ふわっと一瞬漂った香りに

自然と涙が溢れた…