あの日から二週間…

ようやく私は退院した


入院中、毎日のように
病室にやってきた佐伯さん

色々な話をして
凄く親身になってくれた


哲哉くんとの事も
隆ちゃんとの事も
何ひとつ隠さずに全て話して…

それだけで
心の奥につかえてた何かが
取れた感じがして
楽になったんだ…


佐伯さんに連れられて
退院した足で、そのまま
新しい家に向かった

隆ちゃんの事務所が用意してくれた
セキュリティ万全のマンション


私なんかが
ここまでしてもらって
いいのか…

そもそも、何で隆ちゃんの会社が
ここまでしてくれるのか…


あれから、隆ちゃんとは
一切連絡も取らなければ
会ってもない…

全て解決するまで
事件の当事者が接触する事は
絶対にあってはならないらしい…


私は、哲哉くんに対して
被害届を出した

彼の罪は

《監禁 障害 脅迫》

特に障害、脅迫に関しては
彼は過去にも前科があって
その分、罪が重い


だけど…

私が被害届を出した所で
哲哉君が大人しくなんてしてる訳なかった





由「わぁ…    凄い…
 本当に、ここで暮らしていいんですか?」

佐「はい…   いいんですよ?
 あと、荒木さんのご自宅のお荷物が
 こちらの箱に入ってます…

 ご友人の方が、
 全部まとめてくださいました。

 それから今市さんのお部屋にあった
 荷物がこちらですね…

 これは、彼が用意してくれました。」

由「隆ちゃんが…?」

佐「あとで、ゆっくり確認して下さい。
 私が帰った後に、空けて下さいね?
 私が知らなければ
 いいだけの話ですから…  笑」

由「…??

 あ、はい…
 わかりました…  」






佐「しかし…
 あの方は、本当に一筋縄では
 いきませんね…

 まあ、経験上予想はしてましたけど…」

由「哲哉くんの事…ですか?」

佐「やはり、今市さんを告訴すると
 言ってきました…
 障害で訴えると… 」

由「そんな…    」

佐「荒木さんが自分への告訴を
 取り下げれば、今市さんへの訴えを
 取り下げると言ってるようです…」

由「…最低 」

佐「今市さんは、それを聞いて
 悩んでいらっしゃいました…

 あなたは、きっと告訴を取り下げると
 言うだろうから
 それは、辞めさせてくれ と…」

由「…  でもっ

 私が、訴えを取り下げないと
 彼が大変な事になるでしょ?

 私は、彼に助けて貰いました…
 地獄のような生活から
 抜け出す事が出来たのは
 全部、隆ちゃんのおかげです…

 今度は私が、彼を助けたい

 彼の居場所も
 これからの未来も…
 彼の歌も…

 全部、守ってあげたいんです…」

佐「貴方のお気持ちは、分かります…

 ですが‥   あの男性を許せば
 また同じ事が繰り返される可能性も
 あるんですよ? 」

由「他には…    他には何か
 方法はないんでしょうか…?」

佐「もう一度、あちらの弁護士と
 早急に面会したいと思います。

 今市さん側からの、提案も
 あると思うので、もう少し
 時間を下さい… 」

由「分かりました…

 色々と、ありがとうございます…」

佐「とりあえず、
 今日は退院したばかりですし
 ゆっくり休んで下さい…

 また、連絡しますね…」

 

佐伯さんは優しく笑って
部屋を出て行った


部屋中を見渡してから
ゆっくりとソファに腰を下ろす



これから先
私はどうすればいいのかな…


今まで、自分から何かを
決めた事って
数えるくらいしかない…

いつも、誰かに導かれた道を
ただ真っ直ぐに
歩いてただけだ…



自分の事を自分で決める

そんな事が
どうして出来なかったんだろ…


こうなってみて改めて
自分がどれほど弱かったのか
気づかされる…




そんな事を考えながら
部屋の隅に置かれた
箱に目を止めた


私の荷物…



哲哉くんの部屋から
警察と一緒に
柚が持ち出してくれた荷物


服や、鞄に靴
身の回りの物から
通帳や、印鑑
仕事道具…

置き忘れてきた、私の大切な物


ちゃんと、全部ある…

ありがとう柚…



もう一つの荷物は
大きなスーツケース

沢山のステッカーが
あちこちに貼られてて
直ぐに隆ちゃんの物だって分かる

それだけでも、胸が痛む






ゆっくり開ければ、
中には私が隆ちゃんの家で
使ってた物が
綺麗に収納されていた


だけど…

何よりも、すぐに目に止まったのは

一番上に入ってた封筒


そっと中身を空けて
目を向ければ
自然と視界がぼやけた…





【由香へ】


手紙なんて、初めてだね

バレたらコレも怒られちゃうかな?


由香、ごめんね…

辛い思いさせて
痛い思いさせて…
守ってやれなくて、本当にごめん


きっと由香は俺の事を考えて
先輩を告訴しないなんて
言うんだろ?

それは、駄目だよ…

俺は、大丈夫だから…

本当に大丈夫だから…


俺からの頼みねっ 笑

由香にしか出来ない事をして?

今、先輩を罰せられるのは
由香だけなんだよ?

やられっぱなしは駄目だ…

そんなの悔しいだろ?

強くなれないなら
怖いなら

俺を思い出して?


今は会えなくても
俺はいつも由香の傍に居るから…


頑張るんだよ、由香

俺からのお願い聞いてくれるよね?笑



あと、由香のユニクロは
俺の家に置いとくね♡

寂しい時、由香だと思って
抱きしめて寝るから 笑


じゃあ、またね



【隆二】











隆ちゃん…


会いたい…


会いたいよ…




その場に座り込んで
久々に声を上げて泣いた…

強くなるって決めたのに…

隆ちゃんが居ないと
私…   勇気が出ないよ…