警察署に何時間居ただろうか…

事情聴取を終えて
弁護士に連れられて
廊下に出ると
臣が待っててくれた


隆「臣…     ごめん…
 巻き込んで、本当に悪い…」

臣「何だよ…
 謝るなよ…   

 帰れるん… だよな? 」

隆「ああ…
 証拠不十分と、状況的に見て
 逮捕とかはないらしい…
 ですよね? 」

弁「はい。
 あくまでも、今市さんは
 女性の危険を察知しての行動だと
 こちらから主張させて頂きましたし
 被害に遭われた女性の外傷が
 かなり酷かったので…
 相手側の方が厳罰になるかと…

 ただ…   」

臣「ただ? 何ですか?!」

弁「被害者の荒木さんが、彼に対して
 被害届を出せば
 今度は相手の方が間違いなく今市さんに対して
 被害届を出すと思います。
 そうなると、今市さんも加害者に
 なるので裁判、もしくは示談での解決に
 なりますね… 
 今日は、とりあえず帰宅できますが
 場合によっては拘留される事も… 」

臣「は?! そりゃないだろ!!
 何で隆二が…
 さっき録音聞きましたよね?!
 あいつ、隆二が殴るように
 何度も煽って… 」

弁「もちろん!
 裁判となれば、あの録音データは
 かなり有効になります。
 でも、貴社から
 裁判だけは絶対に避けるように
 言われてるんです。
 その意味は、分かりますよね?

 示談しかないんです…
 
 相手側の弁護士と、明日会う事に
 なってるのでこちらとしては
 示談を提案する事になってます。」

隆「… 分かりました

 彼女…は?
 容態は、分かりますか?
 弁護士はついてるんですか?」

弁「五十嵐さんから、私どもの事務所の
 弁護士を依頼されて
 先程面会も済ませました。
 
 意識も戻って
 容態も安定してるようです。」

隆「… HIROさんが?
 
 分かりました…
 そっか…   意識戻ったんだ…
 良かった…   」

弁「貴社より、
 早急の解決を依頼されてますので
 これから大変忙しくなると思います。
 あと、荒木さんとの接触は
 LDH側から禁止とされてます。

 心情はお察ししますが
 解決するまで、絶対に会わないで下さい。」

隆「…会ったら駄目って事ですか?」

弁「はい、駄目です…
 申し訳ありません…
 弁護する上での約束となってるので…」

隆「…  そうですか…

 分かりました… 」

臣「連絡も…?」

弁「はい…
 いかなる接触も一切できません…」

隆「でも…    一緒に暮らしてるんです。
 荷物もあるし…
 それに、彼女は帰る場所が
 ありません… 」

弁「荒木さんの退院後の住居や
 生活にいたっては
 LDH側で全て手配してくれます。
 今市さんが、心配されるような事も
 一切ありません。

 今は、ご自身の事だけに
 気を配って下さい。 」

隆「全部、HIROさんの提案ですか?
 彼女の弁護も、退院後の生活も… 」

弁「そうですね…

 あなたが心配すると思ったのでしょう…
 事件発覚の後、直ぐに動いてましたよ…」

隆「…    はぁ…   マジか…

 わかりました…
 
 全部終われば、彼女と話出来るんですよね?」

弁「はい、全て解決すれば
 問題ありません… 」

隆「分かりました…
 示談の方向で…

 よろしくお願いします…」





臣と警察署を出ると
出口に直ぐに横付けされた
車に乗り込んだ


運転席のマネージャーと
ミラー越しに目が合う



隆「迷惑かけて、
 本当にすいません… 」

マ「本当だよ…

 ったく…
 殺さなかっただけ、良かったけどな… 笑」

隆「…え?」

マ「好きな女、ボコボコにされて
 黙ってる男なんて居ねーだろ… 」

隆「…   でも

 俺は、我慢しなきゃいけなかった…
 
 あの時…
 一瞬たりとも自分の立場も
 周りの人達の事も
 考えられなかった…

 自覚が、まだまだ足りないんだ…」

臣「隆二… 」

隆「臣にまで、迷惑かけて…
 みんなにも
 合わせる顔ないよ… 」

臣「みんな、隆二の味方だよ?
 誰もおまえを責めたりしない…

 だから、そんな事言うな…

 HIROさんも…
 おまえにも彼女にも
 最善の方法を考えるって
 言ってたから…

 自分だけで解決しようとするなよ…
 もっと、周りを頼れ…」

隆「…悪かった…
 でも、マジで臣が居てくれて良かった…

 ありがとな…」



臣に肩を組まれて
目頭が熱くなるのを
抑える事が出来なかった


事務所に向かうまでの間…

ただずっと
黙って外を眺めてた




俺の周りは
本当に家族のように
温かい人達ばかりで…

こんな不祥事を起こしたにも関わらず
一生懸命悩んで
考えてくれる…


俺は、そんな周りの人達のためにも
今まで以上に
頑張らないといけない…

信じてくれて
味方になってくれた人達の思いを
深く胸に刻んだ…