玄関の扉が閉まると
思わずその場に座り込んだ…

『待ってて…』

隆ちゃんの言葉に
胸が締め付けられた


あの日…
隆ちゃんと離れたあの日に
言ってくれるかも…
なんて期待してた言葉


隆ちゃんは特に意味もなく
普通に言ったのかもしれないけど
私には、特別な言葉で…

あの頃の気持ちを思い出させた…


別れた時、もう会わないって
決めてた…

どんなに辛くても、寂しくても
会ったらいけないって…

隆ちゃんが覚悟を決めて
全てを懸けて追いかける夢を
絶対に
邪魔するわけにはいかないから…

隆ちゃんと過ごした時間に鍵をかけて
しっかりとしまい込んだの…




だけど、今は…

私の中で
奥深くにしまっていた物が
今にも溢れ出しそうだよ…











『いらっしゃいませ〜っ』

『こちらでお待ちください』



隆ちゃんが行ったあと
少しゆっくりしてから
予約していた美容院に向かった

着いた先は、緑溢れた空間で
お洒落な美容室

優しいBGMに緊張していた
心も落ち着く


待合のソファに通されて
カウンセリングシートを記入した

【荒木 由香】

名前を書いて、生年月日
住所、電話番号

紹介者名

紹介者…   

【今市…  】


なんて、書けるわけない

途中まで書きかけた隆ちゃんの名前を
グシャグシャっと見えないように
ボールペンで消した



『お待たせしました〜

 荒木様ですね? 』

由「はい…  あの…
 この、紹介者ってところ…
 間違えちゃって…    ネットで見て…」

『はい、大丈夫ですよ〜
 ではお席にご案内しますね♪』



案内してくれるお姉さんは
凄く綺麗で優しそうで
思わず気後れしてしまう…

よく見れば、働いてる美容師さんは
みんな綺麗で
男の人もかっこいい人ばかり…

やっぱり、都内って凄いや…


席に通されて、鏡越しに
色んな人を観察した


その中でも、一際目を引く女の人

ツヤツヤのセミロングの髪を
フワッと巻いていて
透き通るような白い肌に
長いまつ毛

担当しているお客さんと
話してる雰囲気が
優しくて
何よりも笑顔が物凄く素敵だった

そこからも
何故だかその人が気になって
チラチラと見てしまう

視線に気づいたのか
こちらにやってきた…



『お客様? どうかなさいましたか?
 お待たせして申し訳ありません…

 直ぐ、担当者来ますので…』
 

由「あっ あの、大丈夫です//
 すいません… 」

『いいえ…   こちらこそ…
 何かありましたら
 すぐに仰って下さいね?』


そう言うと、ニッコリ笑って
席から離れて行く


近くで見たら
ますます綺麗で
憧れの心さえ芽生えるほど
素敵な人…

女性に対してこんな風に
思うのは初めてだった


その反面…

隆ちゃんの言ってた
知り合いってゆう人が
あの美容師さんだったら…

なんて考えたら
何だか複雑な気持ちになった




『お待たせしました!
 本日担当させて頂きます、落合と申します。
 よろしくお願いしますっ』

由「あっ よろしくお願いします!」

『では、早速ですが
 どんな感じにいたしますか?』

由「えっと…   長さは結べるくらいは
 残して欲しくて…
 でも、イメージは変えたいんです。
 あとカラーは少し落ち着いた感じに…」

『分かりました。
 ただ、長さ切るだけじゃ
 あまりイメージ変わらないと思うので…

 ん〜…   そうだなぁ…
 どんな感じがいいとかありますか?』

由「すいません‥. ちゃんと決めれなくて…

 そしたら…
 あそこの、お姉さんみたいな感じに
 したいなぁ… って 」

『ん…?  あっ 高橋ですね? 笑
 分かりました!
 彼女の髪型ってオーダー多いんですよ 笑
 大丈夫! 任せて下さい!」

由「高橋さん…?」

『あ、彼女の名前です 笑
 見ての通り、凄い可愛い人なんで
 お客様から人気なんです♪
 男性は勿論、女性のお客様からも
 モテモテなんですよ 笑
 実は…     私も、憧れてます!』

由「… そうなんですね。
 凄いなぁ…  
 予約取れないんでしょうね…」

『そうですね…
 高橋は、フリーのスタイリストなので
 サロンワークはうちに週1か2くらい
 来るだけで…
 予約も3ヶ月先にまで埋まってますね…
 芸能人のヘアメイクが
 メインなので忙しいんです…』

由「芸能人…」

『そうなんです…  
  endlessのヘアメイクは彼女が
  昔からやってますよ?
  ファンの方の間でも有名なので
  endlessのファンのお客様が
  かなり多いですねっ 』

由「他には…?」

『他には、EXILEメンバーだったり
 三代目のヘアメイクにも
 入ってますよ〜』



三代目…

間違いない…


隆ちゃんの周りには
やっぱり
こんなに綺麗な人が
きっと沢山居るんだろうな…


隆ちゃん


隆ちゃんは、私に優しくしてくれて
私を好きだって言ってくれて…


だけど…


隆ちゃんの今いる世界を
私は全く知らないから…


何だか凄く
寂しい気持ちになるよ…