「ママ」
ジュリエットが足元で私を見上げている。
可愛いピンクのドレス。彼女の周りには乳母やメイドが屈んで髪をなでたり。頬ずりしている。
愛されている。みんなに愛されている。もちろん私も愛している。
娘を抱き上げた。そして腕に力をこめた。
「ママ、痛い」と言うまで。
「あらあら、奥様。そんなに強く抱いて。心配なさっていらしたもの。思わず力が・・・」
乳母が涙を浮かべた。
違う。
私は嫉妬していた。羨んでいた。無邪気に笑う娘が憎かった。
私も、きれいな服で可愛いと言われたかった。心配されたかった。甘えたかった。
そして、娘に苦痛を与えた。
「支度があるから」
私は、その場から逃げて、自室に戻った。
私は、なんていうことをしたのだろう。娘を傷つけようとするなんて。
私は・・・、私は・・・。
鏡の前で、恐ろしい自分に戸惑っていた。
「もう行く用意はできたのか」
夫が部屋に入ってきた。
「また、肩をつかんで・・・。何かあったのか?」
夫の問いに私は右手で自分が左肩をつかんでいることに気が付いた。
「おまえは、いつも考え事のときには、そうするよな。おかげで、ほら、背中に痣のようなものができている」
夫は小さな鏡と鏡台で合わせ鏡をして、私に背中を見せてくれた。
言われるように、痣がある。
エドが最後に私に触れた場所に・・・。
私は、痣ができるほど、そこをつかんでいたらしい。自分では気づいていなかったが。何か思うことがあると、そうしていたらしい。
「ジュリエットを探していたのよ」
私の声は疲れていた。
それを聞いて、夫は、口調を強くした。
「おまえは、娘にかまいすぎだ。子育ては乳母にまかせればいいんだ。母親が甘やかしすぎると、俺みたいになる」
そう、末っ子の夫は他の兄弟と違って、母が子育てをしたのだ。最後の子供だからと、世話をしたがったらしい。
夫は、肝心な時に気弱になる。それを母が甘やかしたからと言い訳していた。続く