あの子の街(クラブセブン)11 | えみゆきのブログ

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涼風真世さんのファンです。
パロディ小説を書いています

次の日、パックは、すずめさんたちの避難所になっていた古い大きな家に行きました。

すずめさんたちは、最後の片づけをしていました。

そこに避難していた人たちは仮設住宅や、もっと大きい避難所に移っていました。



すずめさんは、もう一度、家の中を見回ります。

「すずめさん、帰ってしまうの」

パックは寂しくなります。あの子は・・・まだ来ていないのですから。

「おお、いつかの異国の坊やだね。そうだよ。また来るためにも帰らなきゃね」

「来るために帰る・・・」

「ここに必要な力とお金を取りに帰る。ここで力と心を貰って帰る。帰るたびにわたしもこの街も元気になれたらいいと思うよ」

「僕の大切な人はまだ帰ってこないんです。この街で生まれたあの子はまだ・・・」

パックは、うなだれます。

「大丈夫だよ。この街で生まれた人なら、きっと帰ってくるよ。今は力を貯めているのさ、きっとね」

「そうかな」

「違いない。それに・・・心はきっと、この街の中にあると思うよ」

「うん、なんだかわからないけれど、すぐ近くにいる気がする」



そうして、すずめさんたちは帰って行きました。新幹線の駅のあるところまでバスでいくのです。

小さなボストンバックひとつだけ下げ、一座が東京から持ってきて流されなかったものは、そのまま、この街に置いて行きました。

増えたのは、あの桜の赤い衣装だけ。すずめさんのバックに大事におさまっています。



バス停まで歩いて行く途中、大きなものが、すずめさんに投げつけられました。

「あぶない!」

パックはその大きなものに飛びつこうとしましたが、すずめさんが空中でつかんでいました。

「ふがふが」

「ありがとうよ、監督」

あの、怒っていた監督さんがなげたのです。それは唐傘でした。

すずめさんは、監督に礼を言うと、まっすぐ視線を前にもどします。

そして唐傘を、空中に投げると、一回転した傘の柄をキャッチし、すばやく傘を開きました。

そして、背中をまっすぐに、すたすたと歩き去ったのです。



「かっこいい!」



そんな様子をみていた街の人たちは、思わず拍手をしていました。なかでも、ひとりの若い女の子が一座の後を追いかけて行きました。

「弟子にしてください」と言いながら・・・。



そして、いつまでも一座が去った方向を見つめていたのは監督でした。

「ふがふが」

彼の言葉がパックにもわかりました。

「ありがとう」

監督さんは、こう言ったのです。続く