マンダレイの番人67 | えみゆきのブログ

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涼風真世さんのファンです。
パロディ小説を書いています

「ルナ、君はどうしてわかるんだい?私たちは、何を見ていたんだろう」

「まとめて聞いたからよ。とっても強烈な人だったみたいだから、違う方にばかり目が向いていたのね。それに頭の良いレベッカが隠そうとしたのですもの。その場にいたら、私だってわからなかったと思う」

でも、ダニーは気付いていた。病院に行くようにと言ってはレベッカに怒られていたが。

「私からレベッカに言ってくれと頼みにきたこともあった・・・。あの時、その通りにしていれば・・・」

「無理よ、フランク。最初はレベッカさえ気付かなかったのよ。だから、病気だと分かった時、レベッカはダニーの勘に驚いたと思う。そして、恐れた・・・」

「何を?」

「自分に強く依存しているダニーによ。あいまいなうちは、ダニーも希望的解釈で、自分の気のせいだと引き下がったけれど、病気がはっきりしたら、どうなるか。よもや死んだあとどうなるか」

レベッカが重い病気とわかったら、ダニーは全力で治そうとする。イギリス中の病院を周り、闘病することに専念させるだろう。どんなにレベッカが抵抗しても。

そして、レベッカの死後、後を追う。




「レベッカも同じことを考えたんでしょうね。ダニーに気付かれず、でも、死んだ後も生きていけるようにと・・・。肖像画を残し、お屋敷に自分の印を刻みつけて、思い出をたくさん残したつもりだったのでしょうね」




ルナの言葉に、考えてみた。

もし、屋敷をあのまま、レベッカの影を色濃く残していけたら、ダニーは生き続けたのか・・・。

違う。狂っていくだけだ。

レベッカを残そうとすればするほど、レベッカが戻らないことがわかるのだから・・・。

ダニーのレベッカへの愛は、ダニー自身もレベッカも思いもよらない深いものだった。



レベッカのいない新しいダニーの世界を築くなど、無理な話だったのに、私は・・・。




「それにしても、レベッカはファベールに、なぜ来てほしかったのかしら?」

ルナは私の無力感にお構いなしに、また、疑問を口にした。

「それから、フランクの思った通り、マキシムがレベッカを殺したとしても、それは計画的ではなくて、発作的なものよね」

私はうなづいた。それだけは言える。マキシムは故意に人を殺す男ではない。

「レベッカがマキシムを怒らせたんだわ。まるで、殺してほしいと罠にかけたみたいに。たぶん、あの夜、ボートハウスで会ってしまって、以前のような喧嘩が始まった・・・」

「だが、マキシムは友達に言われて、いつも以上に傷ついていた。レベッカは、はっきりと死の宣告を受けたばかりだった。二人とも自分の感情に精いっぱいで、相手の気持ちは考える余裕はなかった」

相手にたいして強がっていたのだろう。




もし、レベッカが挑発したのとしたら、レベッカは、マキシムを罪に陥れたかったのか、それとも夫の手によって死にたかったのか・・・。そもそも、マキシムのことを、どう思っていたのだろう。

ファベールを呼んだのは、マキシムの犯行の証人にしたかったのか、病気を告げて甘えたかったのか・・・。ファベールを愛していたのではないことはわかる。




レベッカがどんな気持ちで、最後の日を過ごしたかは、結局、わからないままだ。




「だけど、これだけは分かるよ。レベッカはマンダレイを愛していた。屋敷も含めてマンダレイはレベッカの人生をかけた作品なんだ」

「ええ、だからこそ、ダニーはせめて、お屋敷だけでも守りたかったのね」

私は、またルナのスケッチを眺めた。美しいマンダレイの自然の中に、レベッカとダニーが幸せそうに佇んでいる絵だ。

「今度は私が守る。マンダレイを守って行くよ、ダニーのために、ダニーが愛するレベッカのために、ダニーの仕事を引き継ぐよ」



私は、こうしてマンダレイの番人となった。次へ