わたしはスミちゃんのポケットモンスター | 「入院ジャーナル」

わたしはスミちゃんのポケットモンスター


今週から担当の理学療法士さんが
もうひとり増えて、2人体制になった。


新しく付いていただいた方は、
「おばあちゃまを立たせる名人」
と言われている。


これで、人気の先生ふたりが付いた私は、
「最強カードを2枚も手に入れた」
ということなのだそうだ。


ますますプレッシャーである。




さて、


その新しい理学療法士さんを
私は密かに「王子」と呼んでいる。


おばあちゃま患者に絶大な人気があり、
患者に対して立て膝を付き、
かしずくような得意のポーズが、
まるで王子様のようだから。



そんな王子に恋をする
姫のひとりが、スミちゃんである。


スミちゃんは、推定年齢70~85歳。



いつも同じテーブルで一緒にごはんを
食べている熟ガールだ。



王子が私担当になったことをいち早く知り、
「あなた、あの先生の担当だって!?」と、
私の脇腹を肘で押しながら聞いてきた。


その表情で「恋だよ、これ!」とピンときた。


実際、王子とリハビリしているスミちゃんは、
乙女のようにいじらしく、キュートだ。



「●●先生(王子)、
いくつだろ? 独身かな?」


真顔でそう私に聞いた瞬間、
パッと顔を赤らめて
「ナニ言ってんだか、私は!」みたいな
照れた顔をしたスミちゃんを見て、
私はその日から、
スミちゃんのポケットモンスターに
なることにした。




仕事で培った経験や能力を
生かすべき時がきた!

私は、王子との初めてのリハビリ最中、
Aが本題のようなふりをしながら、
実はスミちゃんがほしいBの情報を
さりげなく聞き出すなど、
取材力をここぞと駆使した。


スミちゃんの笑顔のために。


その間、私は自分のリハビリ中だと
いうことを、すっかり忘れていた。




夕食後、そういえば!と思い出したような顔で、
スミちゃんに、王子情報を報告。


別段なんてことのない
王子プライベート情報なんだけど。



しかし、スミちゃんは片思い中であるからして、
「あなたナニ、それ本人に聞いたの?」と
驚きと照れが入ったような顔で言うので、
嫉妬に転化されず、若い人のノリはそんなもんか、
という方向にいくよう、
「それがナニか?」的な屈託のない顔で応えた。


ポケモンも、やれやれである。



「休みの日は、どっかに行くのか?」


「どこらへんに住んでいるのか?」


「研修は(王子は来週から海外研修に行く)
どれくらいの期間なのか?」



本人に直接聞きなさいよ、と思うのだが、
スミちゃんがポケモンマスターだから仕方がない、
私が王子に聞く。



そして、スミちゃんから、
王子エピソードを聞くのも
私の役目である。


「いかに、王子が優しいか事例」を中心に。


キャッ!


老いらくの恋であるよ。




そんなスミちゃんの目下最大の心配事は、
王子が研修に行っている間に、
自分が退院してしまうのではないか、
ということである。


ごめん。
それは、キミのポケモンも
力になれないよ。




王子のおかげで、どんどん体は回復していくけれど、
回復のおかげで、どんどん王子と離れる時が早まる。



スミちゃんの院内の恋は、
皮肉でせつない。