ねむさん | 「入院ジャーナル」

ねむさん


ねむさんは、いつも「寝ないで」と
看護師に言われている。


ねむさんは、車椅子にじっと座って、
穏やかな顔で、ずっと目を閉じている。




ねむさんの夫は朝からやってきて、
いつもねむさんに、食事を食べさせている。


ねむさんは、目を閉じたまま、
口を開けてごはんを受け入れている。


調子のいい時なのだろうか、
ねむさんは薄目を開けたり閉めたりして、
自分でスプーンを持って食べることもある。




今晩、ねむさんの夫はいなかった。



食事が終わって談笑している時、
私の隣の席のおばあちゃんが、
「あれま、食べさせてるよ」と私に言った。


その視線の先を見ると、
透析を受けているおばあちゃんが、
微笑みながら、ねむさんの口に食事を運んでいた。


ねむさんは目を閉じながら、
それを受け入れていた。



私は、その光景の美しさに、
呆けたように見入ってしまった。




用事を済ませて戻ってきた看護師が、
ねむさんがごはんを食べる様子を見て、
透析のおばあちゃんに、お礼を言った。


それを合図に、ねむさんはもうおしまい、
という仕草をして、
じゃあ、と透析のおばあちゃんは
自分の病室に戻ろうとした。



その時、ねむさんがぱっと手を出して、
透析のおばあちゃんの手に触れた。


目を開けて、笑顔になって、何か言って、
またいつのように目をつむった。


「ありがとう」だと見て取れた。




私の向かいの席の若い女性が、
「あのおばあちゃんが笑うとこ、
私、初めて見た」と言った。


そこにいるみんな、同感だった。




私は大きなあくびをひとつして、
伸びをした後、涙をぬぐった。