もう無視できない!トランプ大統領復活の可能性

9月20日(日本時間21日早朝)、注目されていたアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)は2会合ぶりに政策金利を据え置いた。FFレートの誘導目標は、これまで通り5.25~5.50%ということになる。 ■利下げは来年のかなり後半? やっぱり強いアメリカ経済  同時に公表した参加者による経済見通しでは、19人中12人が年内の追加利上げを予想。つまりこの後、11月か12月に「あと1回」(たぶん最後の)の利上げがあるということだ。

 政策金利見通しは、2023年末の中央値は5.6%と従来と変わらなかった。ただし2024年末の見通しは5.1%に引き上げられた。6月時点では4.6%だったから、FOMC内でタカ派の見通しが強まっていることになる。この調子では、利下げが始まるのは来年でもかなり後半、ということになりそうだ。 察するにFOMCメンバーの大勢は、「今年後半には景気後退入りする」と考えていたのであろう。しかるに「中国経済は本当のところどこまで深刻なのか」 (9月2日配信)でもお伝えした通り、今のアメリカ経済は「スゴすぎる」。1年半で5%以上も利上げをしたのに、経済成長は2%台で、物価と失業率は3%台である。

 いかなるメカニズムなのか、アメリカ経済はこの高い金利水準に耐えている。コロナ下における派手な財政と金融政策が一種の「ショック療法」となり、金利水準が2008年のリーマンショック以前に戻ってしまったのではないか、という気もするくらいだ。  しかるに金融政策には異論も少なくない。9月15日には、あのドナルド・トランプ前大統領がCNBCのインタビューに答えて、現在の政策金利を「非常に高い。高すぎる」と批判している。何しろトランプさんは元が不動産業界の方なので、「人々は家を買えない。何もできない。お金を借りることができないのだ」とご不満な様子なのである。さらには自分が大統領に復帰すれば、「私ならインフレを抑えられるだろう」とも。

いや、前大統領が何を言っても、現時点ではあくまでもノイズにすぎない。ただし衆目の一致するところ、2024年選挙は2020年の「トランプ対バイデン」の再現になりそうだ。ジョー・バイデン現大統領の支持率も4割台と低いので、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性はけっして排除できない。  その場合はFRB(連邦準備制度理事会)議長の人事権を握ることになる。現在2期目のジェローム・パウエル議長の任期は2026年5月まで。そして2025年1月20日には、トランプ氏が第47代の合衆国大統領として大復活しているかもしれないのだ。

 

■予備選開始なら、トランプ氏はぶっちぎりで正式候補  次のアメリカの大統領選挙は2024年11月5日。まだ1年以上も先のことだが、すでに大統領候補者選びは始まっている。共和党は8月23日に、ウィスコンシン州で初の大統領候補討論会を実施した。来週9月27日にはカリフォルニア州で2度目の討論会を実施する。  共和党内でダントツ人気を誇るトランプ氏は1回目の討論会を欠席し、2回目もパスして同日はミシガン州デトロイトで組合員を前に演説する予定。おりしもUAW(全米自動車労働組合)は一部工場でストライキを実施中で、「史上最も組合寄りの大統領」を自認するバイデン大統領に対し、トランプ氏がどう差別化を図るのかは興味深いところである。

なにしろ世論調査(リアル・クリア・ポリティクス、9月6~18日調べ) を見れば、共和党候補者の中でトランプ氏の支持率は57.9%もある。2位のロン・デサンティス州知事は12.7%、3位の実業家ビベック・ラマスワミ氏が8.1%だから、まるで問題にならない(最新の数字は上記のリアル・クリア・ポリティクスを参照)。このまま年が明けて予備選挙が始まれば、ぶっちぎりで共和党の正式候補者に収まりそうだ。  問題は来年の11月5日の投票日よりもはるか前に、トランプ氏の影響力が強まりそうなことだ。「政治とは日程なり」である。来年の政治日程を確認してみよう。

■はやくも3月に共和党大統領候補が誕生も  ○2024年主要政治日程(予備選の日程は共和党) 1月13日 台湾総統選挙 1月15日 アイオワ州党員集会 1月23日 ニューハンプシャー州予備選挙 2月8日 ネバダ州党員集会 2月24日 サウスカロライナ州予備選挙 2月27日 ミシガン州予備選挙 3月5日 スーパーチューズデー 3月12日 ジョージア州など4州で予備選挙 3月17日 ロシア大統領選挙 3月19日 フロリダ州など4州で予備選挙

3月23日 ルイジアナ州予備選挙 4月15日 韓国総選挙 5月7日 ロシア大統領就任式 6月中  G7サミット(イタリア・プーリア州) 7月15~18日 共和党全国大会(ウィスコンシン州・ミルウォーキー) 7月26日~8月12日 パリ夏期五輪大会 8月19~22日 民主党全国大会(イリノイ州・シカゴ) 9月中  自民党総裁選挙 9月末 各州で早期投票、郵便投票が始まる 9月末~10月 テレビ討論会(2~3回)

11月5日 大統領選挙投票日 11月中 APEC首脳会議(ペルー・リマ) 11月18~19日 G20サミット(ブラジル・リオデジャネイロ)  上記のように、2024年の共和党予備選日程は、かなりの「短期決戦型」だ。1月15日のアイオワ州党員集会で幕を開けて、3月5日のスーパーチューズデーにはカリフォルニアやテキサスといった大きな州を含む15州が同時に開票となる。この日だけで、ほぼ3分の1の代議員が決まってしまうので、この日にトランプ氏の勝利が確定する可能性がある。となれば、その時点で「次期共和党大統領候補が誕生!」ということになる。

 もし3月5日に決まらなかったとしても、2週間後の3月19日にはフロリダ州の予備選挙が行われる。デサンティス州知事が地元で敗れる、なんてことになればご当人にはまことに屈辱だけれども、遅くともこの日までには予備選が決着する公算が大である。   そうだとしたら、トランプ氏の言動は来春から世界を揺さぶり始めることになる。ツイッター改め「X」で何かポストすれば、たちまちマーケットも大騒ぎ、なんてことになるのかもしれない。

一例を挙げれば、この時期、3月17日にはロシア大統領選挙がある。おそらくはウラジーミル・プーチン氏が再選されるだろうが、そこでトランプ氏が何と言うだろうか。あるいは5月7日に予定されるロシア大統領就任式に呼ばれて、ホイホイとモスクワに出かけて行ったとしたら。9月19日にニューヨークの国連総会に出席したゼレンスキー大統領は、眉間のしわがますます深まっていたけれども、実は今からその可能性に怯えているのではあるまいか。

■刑事事件の裁判が4件も開始、大統領復帰ならどうなる?   ところが、である。この裁判日程に、トランプ氏に対する4つの刑事事件の裁判日程が絡んでくるからややこしい。  今年になってから前大統領は、4件の刑事事件で起訴されている。連邦レベルが2件、州レベルが2件である。仮にトランプ氏が大統領に当選した場合、以下の②と③の事案に対しては、少なくとも理屈の上では、みずからに恩赦を与えて無罪となることが可能である。ところが①と④の事案は、それぞれニューヨーク州とジョージア州の州法に基づくものなので、たとえ大統領であっても取り消すことはできないだろう。

① 「口止め料」事件(3月30日) 不倫相手への口止め料13万ドルに関する記録不正の容疑(大統領就任前) 初公判:2024年3月25日(ニューヨーク州地裁) ② 「機密文書」事件(6月8日) ホワイトハウスから持ち出した機密文書を自宅で私蔵していた容疑(大統領退任後) 初公判:2024年5月20日(フロリダ州マイアミ連邦地裁) ③ 「1月6日」事件(8月1日) 連邦議事堂乱入・占拠事件を教唆・扇動した容疑(大統領任期中)

初公判:2024年3月4日(ワシントンDC連邦地裁) ④ 「ジョージア州」事件 (8月14日) 2020年大統領選挙のジョージア州結果を覆すよう圧力をかけた容疑(大統領任期中) 初公判:未定(ジョージア州フルトン郡地裁)  上記4つの内でも、大本命と目される③「1月6日」事件の初公判が、何とスーパーチューズデーの前日、3月4日に始まることになった。トランプ氏はもちろん、被告人として裁判所に出頭しなければならない。仮にも「保釈中」の身のうえであるから、「俺は忙しい」などとは言っていられないのである。このことにより、投票日の前日に15州を飛び歩いて、「最後のお願い」をすることは物理的に不可能になってしまった。

共和党支持者から見れば、これこそ選挙妨害であり、「司法の政治化」ということになる。トランプ氏の言う通り「魔女狩り」が行われているのではないか。逆に民主党支持者から見れば、そもそも「1月6日事件」は民主主義に対する挑戦であり、それが現職大統領によるものであったことは到底、許されるものではない。トランプ大統領の復活は、是が非でも食い止めなければならない。  さらに3月25日には①「口止め料」事件、5月20日には②「機密文書」事件が初公判を迎える。2024年のアメリカ大統領選挙は、4件の裁判と並走して行われることになる。

 問題はこれが選挙の行方にどんな影響を及ぼすかだが、何しろ前代未聞のケースである。これまでのトランプ氏は、起訴されるたびに共和党支持者の同情を集め、支持率を上げてきた。しかるに最終的に党の候補者を決めるのは、夏の党大会である。 ■来年の大統領選は3~7月がまったく予測不能に  この間に4件の裁判は、トランプ氏から候補者の「時間、資金、正当性」という3つの希少資源を容赦なく奪っていくだろう。すなわち、以下の3点である。

① 時間:裁判に出頭するだけでなく、弁護団との打ち合わせに膨大な時間を要する ② 資金:弁護士を大勢雇わねばならず、しかもこのクラスになると時給2000ドルを超えるとのこと。裁判費用がかかりすぎると、選挙資金が足りなくなる恐れも ③ 正当性:共和党支持者の間でも、「有罪になったら支持しない」という声は少なくない  結論として2024年の同国の大統領選挙は、予備選挙の結果が出る3月から党大会が行われる7月までがまったく予測不能ということになる。アメリカの選挙と裁判の進行を見ながら、しかも国際情勢日程も絡んでくる。しみじみ大変な年となりそうだ(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先は競馬コーナーだ。24日の産経賞オールカマー(中山競馬場、G2)と、神戸新聞杯(阪神競馬場、G2)は、毎年、秋のG1戦線の前哨戦となる好レースが組まれることが多い。  この日を楽しみにしている競馬ファンは少なくないだろう。特に今年はオールカマーに実力馬がそろって、非常に悩み甲斐のあるレースとなっている。 ■神戸新聞杯は小幡教授が1口保有のハーツコンチェルト  何はさておき、春の天皇賞で競争中止となったタイトルホルダーの復活を見届けたい。この馬、期待されると来ないが、期待していないと来る。ファンから見れば、なかなか「おいしい思い」をさせてくれない困った馬である。鞍上の横山和生騎手が負傷明けということも加わって、あまり信頼されていない今週末はむしろ買い場と見る。深く考えずに単勝で。

 神戸新聞杯は、当欄執筆者の小幡績先生が1口保有するハーツコンチェルトから。右回りコースの経験が少ない点は、ハーツクライ産駒の成長力でなんとか乗り越えてくれるだろう。この馬にとっての重賞初制覇を期待して、こちらも単勝で。もう無視できない!トランプ大統領復活の可能性(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース