日銀の「国債爆買い」で辛うじて維持してきた借金漬け財政がもはや限界に

 3月9日に経済学者の植田和男氏が総裁に就任することが国会で承認され、注目の的となっている日本銀行。 植田和男氏、日銀総裁候補指名までの「状況」が暗示する、日本経済の「不穏な未来」  10年にわたり、黒田総裁の下で異次元の金融緩和を進めてきた日銀は、今や日本にとって「リスクの塊」となりつつあると、日本総合研究所の調査部で主席研究員を務める河村小百合さんは指摘します。  異次元緩和を「死守」する日銀の態度の裏には何があるのでしょうか。  現代新書の新刊『日本銀行 我が国に迫る危機』から、日銀の無理な国債買い入れが引き起こしかねない危機について解説したパートをお届けします。  初回記事はこちら

超低金利状態はいくらでも長引かせられる?

 黒田日銀は、これほど世界的な経済・金融情勢が変化しているにもかかわらず、自らの任期中における超金融緩和政策の転換を頑なに拒み続けてきました。2022年12月に10年国債金利の許容変動幅を±0.50%に拡大させた際にも、黒田総裁は「これは利上げではない」と言い張っています。なぜここまで頑ななのか。  黒田総裁らが表向きは決して口にすることはありませんが、前回挙げた日銀の財務問題以外にもう一つの「本当の理由」があり、それは、我が国の財政運営であることは間違いありません。  超低金利状態が長期化してしまっている我が国では、それが当然と安易に信じてしまって疑わないような風潮が蔓延しきっています。なかには、超低金利状態は、第2次安倍政権時代のように、強い政治のリーダーシップさえあれば、中央銀行が簡単に作り出せるもので、いくらでも長引かせることができ、今後ももっと続けるべきだ、という意見もあります。  ただし、「リフレ派」と呼ばれるそうした方々の見解に、完全に欠落している点があります。現実問題として、日銀に今後、かかってくるコストがどれほど大きいか、国全体としてそれをどう乗り切るのか、という問題です。超低金利状態は、日銀が国債を買い入れ続けさえすれば、何のコストも負担もなく作り出せるものでは決してないのです。  この先、そう遠くない将来に、超低金利状態を作り出すうえでの相当なコストにもう日銀自身が耐えられない、ということが突然、明らかになったとき、我が国の財政運営は、これまで長らく続いてきた「無風」状態から一転、現状の歳入・歳出構造のままでは一気に行き詰まる可能性があるのです。  世間からは、「そういう事態に至る引き金を日銀が引いた」と受け止められるかもしれません。自分たちの任期中には、そういうことには決してなってほしくない。そういう理由もあるからこそ、黒田日銀は超金融緩和政策の転換を頑なに拒んできたのでしょう。