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歳をとらない生き物


風が止むのと同時に、僕たちは皆その場に座りこんでしまった。

恐るべき破壊力を持った怪音波のような木の声。

それに負けてしまわないように、体中に張り巡らせていた緊張がプッツンと切れたんだ。

僕なんか、気付けば肩で息をして、全身から冷や汗が吹き出していた。

「本当本当?本当!?お前たち本当にじゅーに会わせてくれる・・・?」

赤かった顔を元の緑に戻し、河童は自分でも気付かない内に警戒をといて、僕たちのいる岸に急接近する。

それはもう、身を乗り出して手を伸ばせば、いくらでも手が届きそうな程近く・・・。

まるで子どもがおもちゃをせがむような顔で、河童は僕らの目の前にいた。

「本当、本当だよ。そのために僕らは河童どんに会いに来たんだ。」

「それと、夏場所開催のためにな!!」

とりあえずその件はいったん忘れてくれ・・・。

サムと河原が無言でタイガを引きずって行ってから、僕はじっと河童どんと一対一で向き合った。

くもりの無い、怖いくらいキレイな黒をした瞳に差しこんだ光が絶えず反射を繰り返して、ゆれてるのが分かる。

今にも、泣き出しそうだった。

妖怪でも泣くんだなと、僕はこんな時ではあるけどボンヤリと思った。

怒りのままに自然さえも操る河童・・・。

それでも僕は、河童どんに対して不思議と恐怖は湧かなかった。

あるのはただ、何とかしてあげたい、それだけだった。

「だからさ、そのためにその申請を取り消してもらわないとダメなんだ。」

「どうして?」

「どうして、って・・・。」





「じゅーは、お前たちと同じくらい。申請は関係無い。」





・・・2人が約束を交わしたのがいつの事なのか、僕はハッキリとは知らない。

でも、当時子どもだった人がじいさんと呼ばれるようになるのに、必要な時間は10年や20年では済まないだろう。

「・・・違うよ。じゅーは・・・十朗さんはもう、子どもじゃない。」

「・・・?」

その言葉の意味が分かっていないらしくて、河童が大きく首をかしげた。

顔に、不安が浮かんでる。

僕が次の言葉を迷っていると、タイガの処理を終えたサムが、まだ地面にへたったままの僕の横にヒザを付いた。

「河童サン河童サン?突然デ失礼ナンダケド、今歳ハオイクツナノ?」

「・・・分からない。忘れた。もうずっと、ずーっと前の事。」

「ジャアズット、ズーットソノ姿ノママ?」

「そう。気が付いたらこの姿で、いつの間にか生まれてた。」

それが妖怪、と、河童はサムに説明した。

「でもたまに、妖怪同士で夫婦になって子どもが生まれる時もある。」

続けてくわしい説明をしてくれてるようだけど、もう僕とサムは聞いてはいなかった。

歳をとらない生き物に、「歳をとる」とはどういう事かをどうやって説明するか・・・。

僕たちは顔を見合わせて、アイコンタクトだけでお互いにその役目を押し付けあっていた・・・。