昔々、ある山とある村を結ぶ一本道の道端に、一体の地蔵様がおった。
いつ、誰が、どのような理由であの場所に据えたのか、誰も知る者はなかった。
その地蔵様には、古くから伝わる不思議な言い伝えがあった。

地蔵様の好きなものを御供えすると
なんでも願いが叶う―・・・

村では子どもでも知っている程有名ではあったが、信じる者はほとんどなかった。


ある夏の、それは暑い日のことだった。
一人の子どもが山へと続く地蔵様のおられる一本道を、笹竹に包まれた握り飯を大事そうに抱えて駆けていた。
名を豊(トヨ)といい、村の百姓の息子だった。
山と村とのちょうど中間あたりに、地蔵様はおった。
豊は地蔵様を目にすると、嬉々として走り寄った。
地蔵様は七歳になる豊とほとんど同じ背丈で、その御身にぴったりのお社をしつらえられていた。
豊は笹竹を取り払うと、地蔵様の前に供え、手を合わせた。
「神様、仏様、地蔵様。どうかオラの母ちゃんの病を治してください。」
そう呟きながら、豊は何度も何度も頭を下げ、拝み続けた。
ふと、豊は視線を感じて辺りを見回す。
しかし、周りは草が生い茂るばかりで、人がいる気配はない。
獣が握り飯を狙っているのだろうか・・・?
そう思った豊は、慌てて握り飯を隠そうと手を伸ばした。

そして、見てしまった。

と言うより目が合ってしまった。

慈悲深く微笑む地蔵様の裏からこちらを覗く、不敵に笑う老人と・・・。


       地蔵様の後ろ



老人は驚きに動きを忘れた豊を見て、こう言った。

「どうするんじゃ?供えるんか、止めるんか、はっきりせんか!」

老人は、たいそうご立腹だった。
「一度供えた物を取り上げようとは、なんと罰当たりな小僧じゃ!」
老人は地蔵様の後ろから出ようと身を乗り出した。
しかし・・・。
「・・・む、むむむっ!」
地蔵様とお社との間で、その動きはすっかり止まってしまった。
挟まって出られないのだ。
不敵な笑みは崩さぬまま額に冷や汗をかいた老人は、明らかに慌てていた。
そして、先程罰当たり呼ばわりした豊に懇願した。

「・・・助けてちょ。」



続く