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逃がさない

タイガの第一声がどんなものになるか。
河原優子は緊張し過ぎてもう一言も話せそうにないし、僕が口をはさむようなことでもないだろうし。
・・・人のコイジをジャマしたらどんなことになるかはよぉく知ってるんだ・・・。
僕も、そして多分河原もドキドキしながらタイガの言葉を待った。
タイガがゆっくりと右腕を持ち上げて河原をビシッと指差し、叫んだ。

「なんか!顔、変!!」

いっ・・・!!
言っちゃったぁーー!!!
メイクしてる女子に一番言っちゃいけないこと言っちゃった!
顔が変だなんて・・・それでなくても女子相手に言っちゃダメだろ!!
「ばっ・・・!お前何言ってるんだよ!!」
「だって変じゃんよ!!目の回り黒いし、目の上なんか光って

るし!!」
「アレはメイクしてるからだろ!!知らないのか?」
「メイクってレイクの親せきか!?」
「何でも似てりゃ親せきにするなよ!!」
川のど真ん中で何を言い争ってるんだ僕らは!?
ハッとして僕は川辺に立っている河原の方を振り向いた。
河原は目が点になって、何を言われたか分からない、といった感じ

だった。
タイガから言われたことが頭の中で何度も繰り返されているようで、

その内イヤでも言葉の意味を理解してしまうだろう。
怒りだすか、それとも泣かれるか・・・。
・・・どっちにしてもやっかいだ。
「タイガ、逃げよう!!」
「何で?ホラ、いれぐいだぞ?」
まだ言うか!!
とにかく僕はタイガの腕をひっぱって、河原のいる方とは逆の岸へと上がろうとする。
川幅は決して狭くはないし、橋もない。
こちら側に来てしまえば、身なりを気にするあの手の女子は川の中につかろうとはしないハズだと思ったからだ。
「・・・うっふふふふ・・・。」
背中がゾ~っと寒くなって、僕は辺りを見回した。
何!?なんだ今の笑いは!?
「・・・やっぱりアタシが一目でやられただけのことはあるわ・・・!都会のバカ男とは訳が違う・・・!!」
河原・・・笑・・・って、らっしゃる!?
・・・思わず敬語になってしまった・・・。
「絶っ対、逃がさないんだからぁ!!」
「うわあ!!来たあ!!」
河原は川から突き出す岩を飛びついで、こちら側に来ようとした。
あのサンダルでよくもまあ・・・。
「あっ!」
と思った矢先、河原は岩に飛び乗った瞬間足をすべらせ、川へと落ちてしまった。
当然、僕らと同じように全身びしょぬれになってしまい、川の真ん中でヒザを立てた格好で固まってる。
頭のてっぺんでまとめられていた髪がほどけて顔にかかる。
河原がゆっくりと顔を上げ、僕らをロックオンした。
「逃~が~さ~な~いぃ~!!」
「出たあ~~!!!」
ぬれた髪の間からのぞく目はメイクが流れて黒い涙が伝う。
その様はもう、この世のものとは思えなくて、とっさに出たのが

「出た!」という言葉だ。
僕は自分でもびっくりするような力でタイガをひきずって、貞子・・・

いやいや、河原から逃げた。

これは、これからはじまる長い追いかけっこの、ほんのはじまりに

過ぎなかった・・・。