プロローグ
~ユウコの場合~
「あぁっついぃ~~~・・・・。」
扇風機の風を独占してるっていうのに、この暑さは一体なんなの?
拭いても拭いても汗がどばーって出て、せっかくのメイクが流れてく~。
・・・誰も見てくれる人なんかいないけど。
暑い・・・マジ、だるい・・・。
「ユウちゃん、ちょっとお手伝いしてくれないかい?」
「・・・は~~あい。」
それでも大好きなおばーちゃんの頼みは断れない。
アタシは相当なおばーちゃんっ子。
だって、アタシのこといちばーん愛してくれてるのがおばーちゃんだから。
パパとママは、何よりもまず仕事。
アタシが熱だして寝込んだ時も平気で出てっちゃうし、アタシの話なんか聞かずに仕事の電話ばかり。
アタシが髪を染めたことも、メイクをするようになったことも、夜遅くまで家に帰らないことも、何も知らない。
夏休みの間おばーちゃんちに行くよう言われたのもメールでだった。
何でも二人揃って海外出張だって。
『そんなの聞いてない!』って送り返したってムダ。
用件が済んだら、プライベートの携帯はお役御免ってワケ。
・・・夏休みになったら家族で旅行行こうって言ったくせに・・・。
約束を破られるのももう慣れっこ。
手伝いを済ませたアタシは、扇風機の前に戻って携帯を開く。
・・・圏外。
おばーちゃんは大好き、だけどこのド田舎は大っ嫌い!
何もすることがなくて、アタシはその場に寝転がった。
小学生最後の夏休みなのに・・・人生で最っっ悪の夏休みになりそう・・・。
「・・・暑い。」
いつの間にか寝ちゃってたみたいで、アタシは余りの暑さと、誰かの話し声で目が覚めた。
「いつもありがとねぇ、タイちゃん。」
・・・タイチャン?
お客さんかな・・・?
「じゃあね、お母さんによろしく。」
「うん。」
そう言って玄関から出てきた『タイチャン』の姿が、アタシのいる部屋から見えた。
「・・・あ。」
雷に撃たれたような衝撃って、こういうことを言うのかしら?
体中にビビっと電気が走って、頭の中が真っ白になって・・・。
あるのはそう、目に映る『タイチャン』と呼ばれた男の子の姿だけ。
目が離せなかった。
振り返って手を振るその笑顔に食い入るように見入っていた。
『タイチャン』の姿が見えなくなってからも、アタシはその場から動けなかった。
起き上がりかけのビミョーな体勢、そんなアタシを見て、戻って来たおばーちゃんが不思議そうに声をかけてきた。
「おや、ユウちゃん。どうかしたのかい?」
その言葉に金縛りが解けたようにおばーちゃんの方を見る。
「ねぇ、おばーちゃん!今のだーれ!?」
退屈な最悪の夏休みが終わった瞬間だった。
