ニノが自分の携帯を頬に寄せる。
「もしもし……うん…大丈夫だって。
でも、あんまり急には………わ、わかったって。
じゃあ、かわるよ?」
電話口で騒がれたようで、ニノが耳を押さえながら携帯を俺に渡して来た。
「……もしもし」
辞表を出した足で営業部を出たあの日から、大野さんの声を聞くのは初めてだ。
理由がわからないのもあってどうしても警戒してしまう。
そんな俺に大野さんは
「あっ、相葉ちゃん、元気か?
もう!返事くらい返せよ。心配するだろ」
以前と全く変わらない口調。
「……ゴメン」
自然と俺もあの頃の関係性に戻っていた。
「で?こうやってニノの電話を使ってるってことは、引きこもりは辞めたんだな。
ニノに聞いたぞ、部屋から出て来ないって」
うわぁ恥ずかしい。
ついこの間までのいじけた自分の姿を大野さんが知ってるなんて。
それにしても、全部筒抜け?
ニノと大野さんやっぱり仲が良過ぎないか?
「ご心配をおかけしました」
電話口で頭を下げる俺の返事も待ちきれないように大野さんが続けた。
「じゃあ次を考えられるな。
相葉ちゃん、オフィスRANに来いよ。
俺も今、RANにいるんだよ」
「えっ?大野さんがオフィスRANに?」
大野さんは光友商事で確実に出世コースに乗っていて、あのまま行けば早々に役員にだってなれた人だ。
それが……ベンチャーの…RAN?
別にベンチャーが悪いわけじゃないけど、大企業の出世コースを捨ててまで…
「そうっ!
あの後、上に談判しに行ったんだけど、奴らこっちの話なんか全く聞きやしねぇ。
愛想尽かして、俺も辞表叩きつけてやったんだよ」
「そんな……俺のせいで」
「相葉ちゃんのせいじゃねぇよ。
俺があの会社に嫌気が指しただけ。
前から、なんかつまんねえなぁと思ってたんだよ。
そしたらさぁ、翔ちゃんがRANに来ないかって。
ちょうど営業部を立ち上げようとしてたんだってよ。で、面白そうだからこっちに来た。
出来たばっかりで人手が足りねぇんだよ。
相葉ちゃん、手伝ってくれよ」
俺は携帯を持ったままニノの顔を見た。
大野さんの声が大き過ぎてニノにも聞こえていたらしい。
もともとニノは話の内容を知っていたんだろう。
苦笑いしながら頷く。
そんなニノを呆然と見返した。
つづく