松本さんはこれからオレとメシを食いに行くんだよ。
オレと二人だけで。
邪魔するな!
あ、まただ。
別の女子社員が声をかける振りをして、また松本さんに触れた。
気安く触るなよ!
「ねっ?
二宮さんも大丈夫でしょう?」
松本さんの後ろで固まってしまっているオレに、ついでのように声をかけてくる。
大丈夫なわけないじゃん!
なんて、言えるわけないし。
「たまにはいいでしょ?
ねっ?ねっ?」
さらにオレに詰め寄る女子社員。
手を握られて、エレベーターの中なのに腕を引かれる。
オレを丸め込んでまで、そこまでして松本さんと食事したいのか。
胸の中はモヤモヤしてるけど、女子社員は先輩ばかりだし、何も言い返せる筈もなく苦笑いをしてやり過ごすしかなかった。
すると、松本さんがさりげなくオレと女子社員の間に入って、その人からオレを解放してくれた。
「今日はムリなんだ。
食事会は、また今度セッティングするから」
女子社員に向けて極上の笑みを向ける。
女子社員達の目はそのキラースマイルに釘付けで
「ゴメンね?」
追い討ちをかけるような甘い声音と更にギアを上げた微笑みに、みんな崩れ落ちそう。
するとグループのリーダーらしい人が
「仕方ないわね。
じゃあ、今度、必ず食事会セッティングしてくださいね」
ため息混じりに承諾すると、他の女子達も心底残念そうな顔をしながら、絶対ですよとか楽しみにしていますねとか渋々ではあるけど納得したみたいで。
ちょうど一階に着いて開いたエレベーターからキャイキャイと騒ぎながら出ていった。
彼女達は乗り込んで来た時と変わらずに楽しそうで、松本さんに断られたダメージは全くないみたいだった。
それを見送って松本さんが、ふうっ、と息を吐いた。
「まあ、俺らの立ち位置なんてあんなもんだ。
今日は俺達を肴に盛り上がるんだろ」
やれやれとネクタイを弛めた。
「行くぞ」
松本さんは何事もなかったように歩き始める。
その後ろを歩きながら、オレは自分に驚いていた。
二人だけの時間を邪魔されそうになってムカつくなんて
独占欲の塊じゃあないか
女子社員が松本さんに触れたことがこんなにもイヤだなんて
オレだって触れてないのに……
って、その瞬間思ったなんて
オレ……触れたいんだ松本さんに……
前を歩く背中を見上げる
ワイシャツ越しにもわかる鍛え上げられた背中、肩甲骨、肩、襟足から覗くうなじ
腕に触れるなんて可愛いもんじゃない
そんな普通の関係なら触らないようなところに手が伸びそうになるなんて
肉欲そのものじゃあないか
オレ…………
「どうした?」
不意に松本さんが振り返った。
「顔、赤いぞ?
熱があるわけじゃないよな」
熱を計ろうと額に伸びてくる手を
「だ、だいしょぶ、だから…」
オレは慌てて振り払った。
つづく