カッ……ツッ……カッ……ツッ…ン……


明かりの絞られた廊下をとぼとぼと歩くオレの足音だけが響く。


ホテルを出たオレは、原稿を校了に放り込んでそのまま事務所の長椅子に倒れ込んで眠ってしまった。


丸3日、まともに寝ていなかった身体はなかなか覚醒してくれなくて、目が覚めた時にはとっくに日が暮れていた。


それから訂正やら打ち合わせやらに時間を食って、もう日付も変わろうかという時間。


そこそこ寝たはずなのに、場所が悪かったせいか身体の疲れは全然癒えていない。
重い身体を引き摺るようにオレは編集部を目指した。


きっと、もう誰もいない。


早く家に帰って風呂にでも入って寝ればいいのに。
何でオレはこんなにも必死に編集部に行こうとしてるんだろう。


馬鹿だと思う、無駄だと思う。
だけど
『編集部で待ってるから』
松本さんの言葉が頭から離れなかった。


やっとの思いで編集部のドアを開けると、中はやっぱり暗くて
だけど、広いフロアの奥に小さな明かりが灯っているのが見えた。


薄暗い部屋の中、パソコンの明かりに照らされた顔を見た時、オレは初めてこの仕事が終わった気がした。


急に身体の力が抜けて、松本さんのデスクに辿り着く前に誰かのデスクに倒れ込む。
ガタガタンッ!
大きな音がして、辛うじて膝をついてデスクにすがり付いた。


「ニノッ!」


松本さんが駆け寄ってきて背中を支えてくれた。


「…締め切り、間に合いました」


支えられる腕の中で松本さんを見上げて笑みが浮かんだ。そんなオレに松本さんは


「良くやったな。立てるか?」


腰に腕を回してオレを立たせてくれながら、見下ろしてくるその顔が
見たこともない程優しくて、何だか恥ずかしくなる。


「お疲れ。お前メシは?」


そのままの微笑でオレの顔を覗き込んでくるから


「…昨日は食べた気がするけど……」


考えるふりをして視線を反らした。
















つづく