りゅうちゃん?……って、誰のこと?
………あっ!井筒隆一だから……隆ちゃん?
あの、井筒先生をそんな呼び方で呼べるなんて、この人は何者なんだ。
首を傾げているうちに、彩華さんに引き摺られるように出てきたその人は
「潤って、松本くん?なんで?」
オレと同じで状況がよく飲み込めてないみたいだけど……
これが、本当にあの井筒先生なのか?
目の前に茫然と立ち尽くすその人は、
洗いざらしの白髪頭に無精髭、着ている服は……
赤いリボンのネコのキャラクターのスウェット!?
しかもショッキングピンク!!
目に掛かる前髪はゴムで纏められて頭の上で跳ねている
俺の知っている井筒先生とはまったくの別人。
いや、顔の作りや体格は先生そのものなんだけど……
余りのショックで何も言えずにただ目を白黒させるだけのオレとは違って、落ち着き払った松本さんがピンクの袖の腕をがしっと捕まえてニッと不敵に笑った。
「先生、下に車を用意してあります。
このまま行きますよ」
「えっ?
この格好のまんま?」
今さらオタオタし始めた井筒先生に、松本さんは有無を言わせず
「時間がないんですよ!
誰にも気付かれやしませんって。
彩華さん、荷物お願いします」
逃げられないようにか、先生の後ろに回ってその両腕をしっかりと捕まえている。
まるでテレビで観た犯人を連行する刑事みたいだ。
松本さんに言われた彩華さんという人も、慣れた様子ですぐに井筒先生の物と思われるバッグを玄関まで持ってきた。
「隆ちゃん、観念して仕事しなさいよ。
終わったら遊んであげるから、ねっ?」
彩華さんが優しく語りかけると
「あやちゃん、約束だよー」
思いっきり後ろ髪を引かれつつ松本さんに連行されて行った。
オレはその後を重い鞄を持って付いて行った。
「何で松本くんがここにいるんだよ」
社用車の後部座席でしゅんっと肩を丸めた井筒先生が文句を言う。
ハンドルを握った松本さんは、チラリとバックミラー越しにひと睨みして
「先生、俺の大事な部下をあんまり困らせないで貰えませんかね」
「君、松本くんの配下だったの?
何かヌケてそうだったから、チョロいと思ったのに」
随分とディスられてるけど、実際何にも出来なかったオレは笑って誤魔化すしかなかった。
「先生、二宮を甘くみてると後で痛い目を見ますよ。こいつは、やられっぱなしでいるようなタマじゃあないんですから」
先生に言っているようで松本さんの視線はオレを捉えている。
バックミラー越しの強い瞳に思わず背筋が伸びた。
つづく