どうにも落ち着かなくてキョロキョロと部屋の中を見回しているとしばらくして、カチャリとドアが開いた。
その音に弾かれたようにソファーから立ち上がる。
「やあ、お待たせしたね」
渋い色合いの和服を着こなし、少し長めのロマンスグレーをきっちりと撫で付けたその人は柔らかな笑みを浮かべている。
のに…
その立ち姿はまさしく今の文壇の牽引者、井筒隆一そのもので。
醸し出されるオーラというか威圧感が物凄くて直立したまま身動きが出来なかった。
「んっ?どうした?
どうぞ、座って」
目の前に突っ立ったまま固まっているオレをソファーへと促す手。
その手と笑顔に、我に返ったオレは慌ててポケットから名刺を取り出した。
「講嵐社の二宮と申します。
この度は突然の担当変更でご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いやいや、伊藤君も大変だよね。
二宮君だね。よろしく頼むよ」
「こちらこそ。どうぞよろしくお願いいたします」
言いながら腰を90度に曲げた。
オレの手を離れた名刺がテーブルに置かれ、先生が肘掛け付きのソファーに身体を沈める。
「そんなに硬くならずに。
まあ、座ってお茶でも飲んで」
さあさあと促されて再びフカフカのソファーに腰を下ろした時に、ちょうど奥様が紅茶とケーキを持って入ってきた。
お礼を言って、香り高い紅茶を口に含んでやっと少し落ち着いてきた。
「あの、早速で申し訳ありませんが……」
甘党らしい先生が幸せそうにショートケーキを口に入れるのを見ながら声をかけた。
んっ?と先生がこっちを見て、目が合うとまた緊張がぶり返してくるけど、さっきまでよりは落ち着いてきている。
とにかく目的を果たさないと。
「あの、今回の締切が明後日となっていますが……」
初対面で、どんな仕事の仕方をするのかもわからない。
作家にとっては聞きたくない単語だというのが分かりきっているだけに恐る恐るお伺いを立てる。
すると先生は
「ああ、そうだったね。
明後日、そうだな昼過ぎに取りに来てくれるかな」
笑顔で返してくれた。
編集長が言っていた通り、余裕を持って仕事をするあまり手のかからない人のようだ。
これは何とかなりそうだと、胸を撫で下ろした。
つづく