「…………想像以上……だな」
高級住宅街のど真ん中、あっちの曲がり角からこっちの曲がり角まで延々と続く黒板併。
屋根付きの門の前で防犯カメラに見詰められながら、さすがのオレもインターフォンを押す指が震えた。
スピーカーからの「はい」という声に、マイクに顔を寄せて
「講嵐社の二宮と申します。
井筒先生に御挨拶させて頂きに参りました」
来訪の目的を告げると和風門が自動で開いた。
恐る恐るそれを潜って敷地に足を踏み入れる。
綺麗に刈り込まれた庭木。
置く場所も計算されているんだろう大小の庭石に灯篭。
庭園ってきっとこういう場所の事を言うんだろう。
辺りを見回しながら道しるべのような飛び石を渡っていく。
ようやく門からは見えなかった玄関に辿り着くけど、インターフォンがない。
玄関の引き戸の前で
「講嵐社の二宮です」
もう一度名乗ると、中から
「どうぞお入り下さい」
さっきと同じ女の人の声がした。
引き戸をそうっと開けると上がり框の先に着物姿のご婦人が迎えてくれた。
「連絡は頂いています。伊藤さんの代わりの方ですね。どうぞこちらに」
ただ来訪者を案内しているだけ、ただそれだけなのに後ろ姿に漂う気品。
この人が井筒先生の奥様、なんだろうか。
外観はいかにもな日本家屋なのに、通されたのは洋間で、豪華な皮張りのソファーに案内された。
オレを座らせると
「主人を呼んで参りますね」
微笑とともに婦人が出ていったドアを呆然と見送った。
はぁー
一人になって思わずため息が溢れた。
こんな如何にもな大御所の家は初めてで、さすがのオレも緊張する。
家の構えだけじゃなく、奥さんまで如何にも文豪の妻って感じ、こういう世界ってそういうもんなのか?
妙に居心地が悪くて落ち着けるはずもなく、部屋の中を見回した。
天井にはシャンデリア、壁には絵画、このソファーも壁際のサイドボードも重厚で如何にも高級そう。
生きる世界が違う。
まるで映画のセットみたいな、こんなところで生活してる人が本当にいるんだ。
つづく