久しぶりの『古書堂』のハンバーグランチに舌鼓を打っていると、二階からドヤドヤと足音がして、

相葉さんと翔さんが縺れるように降りてきた。



「じゃあな、雅紀。行ってくるよ」


「うん、早く帰って来てね」


「もちろん!終わったら速攻で帰ってくるから」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」



人前も憚らず、イチャイチャベタベタ

新婚じゃああるまいし

いくらブランクがあったからって、翔さんがアメリカから帰って来てから3年も経ってるじゃんか。



呆れるオレたちをしり目に、相変わらず縺れ合いながら出入口のドアまで行くと、行ってきますにしては濃厚過ぎるキスを交わして、今生の別れを惜しむかのように振り返りつつ、やっと翔さんが出掛けて行った。



なで肩の後ろ姿が見えなくなるまで手を振っていた相葉さんがやっと店の中に戻ってきて



「あれっ?ニノいらっしゃい」



ずっとここにいたオレに今気が付いたように目を丸くした。

いや、ホントに今気が付いたんだよね。

翔さんといる時にはオレたちなんてまったく目に入ってないんだから、この人は。



「毎度お熱いことで」



カウンターに頬杖をついたまま言ってやると



「くふふっ羨ましい?

ラブラブだからねぇ、しょうがないよねぇ」



幸せそうに頬を緩めるから



「端から見てると暑苦しいったら。

出掛けるたんびにあれって、疲れないの?」



半ば呆れて聞いてやると



「まぁ、これもコミュニケーションの一種だから、大目に見てよ」



思いの外冷静な返事が帰って来た。



「ところで、今日はどうしたの?

原稿はあげたばっかりだよね?」


「えっ?……いや…………うん………」



急に本題を振られて答えに詰まる。

オレの煮え切らない返事に



「じゃあ、上で話そうか。

コーヒー持って行くから先に上がってて」



瞬時に察して、二人だけで話せるようにしてくれる、その気配りが有り難かった。

とてもついさっきまでメロドラマを繰り広げていた人物と同じ人とは思えない。



でも、実はとても思慮深く人を包み込むような優しさは出会った頃から変わらないこの人の魅力で、恋心とは形が変わった今も、オレは人としてのこの人が大好きだ。










急な階段を上がると、2階は小ぢんまりとした2DKになっている。

元は畳敷きの3部屋を改築して全室洋間にした。

小さなキッチンとトイレ、風呂を付けたら生活空間は更に狭くなった。

今の収入ならもっと広い部屋にだって余裕で住めるのに、二人は変わらずにここに住み続けている。



下と同様に緩くエアコンの利いた空間。

小さなキッチンの傍のダイニング兼用のソファーに腰掛けた。



必要最低限な物がキチンと収納された部屋の床のあちこちに不自然な本の山が出来ている。



これはきっと翔さんの仕業で

二人の生活が見えるようで思わず頬が緩んだ。










 つづく