カランカラン……
カウベルが鳴る。


この店に今頃客が入るなんて珍しい。
そう思って扉に目をやると、入ってきたのは見慣れた濃い顔のイケメン。


客じゃなかった。


「松潤、久しぶりだね」


元同級生で今でも親友の相葉さんが嬉しそうに迎えた。


「お前の担当、こいつに取られたからな。
ここに来る口実がなくなっちゃってな」


ニヤリと笑ってオレを見る。
そんな顔までイケメてて意味もなく悔しくなる。


「別に取ったわけじゃないでしょっ!
人事ですから。原稿はこの通り」


オレは手の中の封筒を掲げて見せて


「迎えに来てくれたの?
優しいなぁ、松本さん」


わざと甘えた声で言ってやったら、呆れたように目を細めた。


「近くまで来たから寄っただけ。
ニノ、電車だろ?乗ってけよ。
これからそれ、打ち込みだろ?」


元々はお互い相葉さんに恋するライバルで、失恋した時は一緒にやけ酒を煽ったこの人が、今はオレの直属の上司だ。
オレが編集者を志したのも、多分にこの人の影響があったのは否めない。


「あれっ?ディオは?」


早く帰社しなきゃなんないんじゃないの?
徐にキョロキョロと辺りを見回すイケメンをこっそり睨んだ。


「今日はね、定期検診。
バイト君が連れてってくれてる」


ここに寄った本当の目的の相手がいなくて、わかりやすくガッカリする。
その落ちた肩を見てやれやれと小さく首を振って相葉さんに向き直った。


「バイト?ああ、あの子」


小柄で可愛い顔してるのに、いつもくそ真面目な顔で忙しなくカウンターの中を動き回っているバイト君。
その仏頂面を思い出してハアッとため息が漏れた。


「なんだぁ~
ディオにお土産買って来たのになぁ」


後で食べさせてやってよ。と、松本さんがカウンターに大きなバナナの房を置いた。


何年経っても懐かれないのに、この店の看板サルのディオへの愛は相変わらずで松本さんの虚しい努力は続いている。











つづく