キッチンから漏れてくる出汁の匂い。
それにテンションが上がったのか


なっべや~きう~どん♪
なっべや~きう~どん~♪


よく分からない鼻唄を唄いながらリビングに入っていくあなた。


そのままキッチンに行くんだろうと後ろを付いていったオレは、急に立ち止まったあなたの背中に激突した。


「痛った……どうしたの?」


鍛えられた硬い背中に鼻から突っ込んだ。


「……ずごい、キレイになってる………
かずちゃんがやってくれたの?」


リビングを見渡して呆然としている。


「他に誰もいないでしょ」

「別の部屋みたいだ……
ありがとう、大変だったでしょ?」


キラキラの瞳に見下ろされて妙に照れる。


「いや、けっこう……楽しかったから……」


「たのしかったの?かずちゃんって、掃除好きな人?」



別に掃除が趣味でも、好きなわけでもない。


だけど………


あなたが生活する空間を、あなたを思い浮かべながら整えることが。
どうすればよりリラックス出来るかとか、動線を考えるのが凄く楽しかったんだ。


オレがここにいる理由はあなたの看病で元気になったあなたの隣にいることはないのに。


だけど、想像してしまうんだ。
このソファーで寛ぐあなた。お気に入りのCDは手の届きやすい所に。
ここで仕事をするなら、資料はこっちに纏めて置いた方がいいとか。
風呂好きのあなたのために、タオル地は多めに、そしてふかふかにしてみたり。


そうして無意識のうちに、そこにいる自分を想像している。


あなたと暮らす、幸せな妄想


ここにいるとそんな感情が沸き上がってきて、自分で自分をもて余して却って辛くなる。


……ちゃん
……かずちゃん

「ねぇ、かずちゃん!」

「……えっ?」


余計な思いに捕らわれて、立ち尽くしていたらしい。
気が付けばオレの肩をあなたが揺らしていた。


「どうしたの?
俺、お腹空いちゃった。鍋焼うどん食べたい」

「あ、ああ、どうもしてないよ。
ふふっ、仕上げしなきゃだから、先に風呂に入ってきてよ」

「掃除しすぎて疲れちゃったんじゃないの?
かずちゃんが具合悪くなったら、俺が看病するからね」


オレの心配をするあなたの、頬を挟んだ両手から伝わる、燻り続ける熱。
それでもこのくらいなら大丈夫と笑い、人の心配までするあなたの、不調に慣れた身体が悲しかった。























つづく