パタリと閉まったドアを見送って、ふうっとひとつ息を吐いた。
あなたはまだ本調子ではない。
不安は残る。
だけど、仕事中のあなたにオレに出来ることはない。
オレは、今オレに出来ることをするだけ。
よしっ!と気合いを入れると玄関から部屋の中に戻っていった。
まず、寝室の窓を全開にする。
ベッドのリネンを全部剥がす。
部屋の中を物色して布団乾燥機を探した。
天日干しの出来ないベッドには必需品。
熱のせいで汗も凄くかいたはず。
布団乾燥機をかけている間に加湿器のフィルターの掃除と吸水を済ませる。
寝室に限らず、目についた布類を片っ端から洗濯して干す。
あなたがいると出来なかった、部屋中に掃除機をかける。
床や棚を拭き、水回りを磨き上げると、やっと部屋の中がこざっぱりとした。
「こんなもんかな」
雑巾代わりにした古タオルを片手に部屋の中を見渡した。
我ながら来た時とは見違えるほど綺麗になった部屋。
どれだけ掃除してなかったんだろう。
へやの隅や棚の上に積もった埃に、時の長さとあなたの意識の行方を思う。
オレのせいで…………
ダメだダメだ、また負のループに填まってしまう。
ブンブンと頭を振ると部屋の隅のデジタル時計が目に入った。
掃除に熱中しすぎて、昼はとっくに過ぎている。
国営放送は就業時間がきっちりしていると聞く。
「大変だ。帰ってきちゃう」
オレはあなたとの朝の約束を果たすためにキッチンに入っていった。
19時を回った頃、玄関のインターフォンが鳴った。
さすが国営放送、噂通りきっちりしてる。
中からドアを開けると
「ただいまっ」
満面の笑顔とは裏腹に、その顔にありありと浮かぶ疲労の色。
国営放送はきっちりしたと時間の中で、しっかり働かせる方針らしい。
「お疲れさま。早く帰れて良かったね」
それでも、帰りが早ければそれだけ休ませてやれる。
笑顔のあなたにオレも笑顔で出迎えた。
「何たって身体が第一だからね。
余計な挨拶や接待は全部省かせて貰った」
あなたの後ろで、優秀なマネージャーが鼻息を荒くする。
「約束の夕飯用意したよ。
良かったら、櫻井さんも一緒にどう?」
夕飯に瞳を輝かせるあなたと、顔の前で軽く手を振る櫻井さん。
「気持ちは有り難いけど、野暮なことはしないよ。
二人でゆっくりどうぞ。
ただ、明日も明後日も大仕事が続く。
二宮さん、引き続き雅紀をよろしく頼みます」
玄関先で少し話をしただけで、イケメンマネージャーは颯爽と帰っていった。
つづく