風呂と洗髪はセットなのかそれとも条件反射なのか、今日二度目の風呂上がり、ホコホコと湯気を立てて風呂場から出て来たあなたは濡れた髪をタオルでワシャワシャとかき混ぜている。


そのままソファーに腰を落とすと


「髪、乾かして?」

「甘えてる?」

「くふふっ、いいでしょ?
いけないことは我慢したんだよ?その代わり」


嬉しそうに頭のタオルを落とした。


こんな時、オレの立場ならどうしたらいいのか。


自分の身体を思いやらないあなたの思考を諌めたほうがいいのか。
そんなこと考えられないくらいに、こっちから話題を振ればいいのか。
正解がわからないままにオレはドライヤーのスイッチを入れた。


それが一番オレが望んでいることだから。


さすがにこんな状態のあなたとどうにかなろうなんて思わないけど、それでもあなたに触れられるのは嬉しくて。
気持ち良さそうに目を瞑るあなたの指通りのいい髪をすきつづけた。


風呂に入ったせいでかえって目が冴えてしまったのか、あなたは夕飯を食べた後もベッドに戻ろうとしなかった。


「ねぇ、ちょっとだけ、台本読んでいい?」


ソファーの上でそわそわしている。


「疲れちゃうよ?」


一応反対はしてみるけど


「無理はしないから。
明日はもうリハーサルだもん、少しは準備しておかないと、気になって今夜寝られないよ」


真面目なあなたのことだ、そうくるはのわかっていた。
そして、言い出したら聞かないことも。


「しょうがないな、少しだけだよ。
疲れたら終わりにしてよ?」

「うん!」


オレが強く止めないのが嬉しかったらしく、満面の笑みでこれ以上ないくらいいい返事。


早速、まるで電話帳のような分厚い台本を開いて、そこに意識を集中させて行った。


いつもオレを優先させるあなたなのに、
まるでオレがいることなんて忘れてしまったんじゃないかと思うほどの集中力。


それはオレの知らないあなたの顔
仕事をする男の顔


あなたの身体の隅々まで知り尽くしているのに
あなたはいつも自分をさらけ出してくれてるのに


まだ、初めて見る顔があったなんて


その横顔を見ているだけで胸がキュッと音を立てる
もう充分オレの中はあなたでいっぱいなのに……


ずっと見ていたいけど、このままだとあなたに手を伸ばしてしまいそうで、慌ててキッチンに逃げた。






オレが片付けを終わらせても、わざと長めに入った風呂から出てきても、あなたは一心不乱に台本を見詰めたまま。


時間はあっという間に過ぎていく。


そろそろ寝かせないと明日に響いてしまう。


もう少しと粘るあなたを説き伏せて、何とかベッドの中に入れた。


横になったあなたの顔には明らかに疲労の色。


そんなに長時間じゃあなかったのに、
身体が回復するには、まだまだ休養が足りない。
それでも、明日は仕事に送り出さなきゃならない。
無理はしてほしくないけど、無理をしてもやらなきゃならない、時もある。


せめて、グッスリ眠れるように環境を整えてやるくらいしか、オレに出来ることはなくて


だから


「一緒に寝たい」と繋いだ手に力を込めて言われた、あなたの要求を飲んだ。


何もしないよ。今夜も手を繋いで寝たいだけ。だけど、ベッドと布団じゃあ段差が大きすぎて繋いでいられない。またかずちゃんを無理な格好で寝かせるのはヤだもん。隣で寝てくれれば俺も安心して寝られるし、ベッド広いから二人くらい余裕で寝られるよ。
って、必死か!


そう、いつでもあなたは必死でオレを求めてくれる。


その必死さに絆されたわけじゃないけど。


ソロソロと隣に潜り込んだオレの身体を抱き込んで、あなたはすぐに穏やかな寝息を立て始めた。
手を繋ぐんじゃなかったの。
あなたの胸に埋めた頬に伝わる、まだ少し高い体温。
直接感じる息づかいが、あの日断腸の想いで諦めたあなたの腕の中にいることを知らしめて……


瞳は潤むのに、不思議と心は穏やかで
あなたの安らかな寝息を聞きながら、オレも深い眠りに落ちて行った。










つづく