たまたま大野さんとふたりだけになったので聞いてみた。


「潤くんがこっちに来る時、何も言わなかったじゃない。納得して別れたんじゃないの?」

「別れたもなにも、始まってもいねぇよ」


カウンターのいつもの席、中で作業するオレの顔をチラッと見て憮然とした顔で言い放つ。


「始められない理由があったんでしょ?」


綺麗な指が耳の下をボリボリと掻いて、視線を店の中にぐるりと巡らせた。


「………オーナーとキャストじゃあなぁ。
商品に手を出すわけにはいかねぇじゃん」

「自分でこの世界に引き入れたくせに」

「あんときはそれが1番いいと思ったんだよ。
まさかこんな厄介なことになるなんて……なぁ」

「厄介な事なの、ひどっ!
だったら、何で潤くんが辞める時に言ってやらなかったの」

「あいつは足を洗ったって、俺は続けてくんだ。こんな世界にいる俺なら側にいない方がいいんだよ」

「じゃあ、今ここにいるのは?」

「後継者、決めたから。
一人前になるまでにはあと何年かかかるけど、あいつなら大丈夫だろ。
お前も知ってるだろ。ユウリだよ」


名前を聞いて驚いた。


確かにオレも知ってる。
弟妹を養うために『PARADOX』に入ってきた新人だ。
あんな所にいたって擦れたところのない、真面目で真っ直ぐな奴にboysclubのオーナーなんて務まるのか。


「ユウリ?出来るの?」


オレの懸念なんてお見通しの大野さんは自信満々で


「すぐってわけじゃない。
今は絶賛修行中。
真面目には真面目の、あいつなりのやり方があるんだよ」


と胸を張った。


「とにかく、しばらくしたら俺は引退する」

「それで、その後はどうするの?」

「そうだなぁ、ラーメン屋手伝いながら、漁師でもするかなぁ」


言いながら、ふふっと笑うその顔があんまりにも楽しそうで、この人もようやく重圧から解放されるんだと思ったらちょっとだけ複雑な気持ちになった。


出来ることとやりたいことが、必ずしも一緒だとは限らない。


この人も前のオーナーへの義理を果たすために頑張ってきたんだ、と今さら気が付いた。


「だからさぁ………」


ちょっぴり感傷的になってぼんやりとしていたせいか、話の続きに反応するのが遅くなった。


「この店は心配いらないから、ニノ、相葉ちゃんの所行ってもいいぞ」


…………?……っえ?


「……っ、な、なにバカなこと言ってんの?
そんなの、とっくに終わってるし……
………あの人とは………住む世界が違うんだよ」


いきなり聞かされた、ここでは滅多に聞かない名前。
潤くんも気を遣ってかその事について話さないし、本当に時々店の点きっぱなしのテレビから流れてくるくらいのあなたの名前に、思わず持ってた包丁を落としそうになった。











つづく