「ありがとうございましたぁー」
最後の客を送り出して、今日もいつもと変わらない
一日が終わろうとしていた。
後は片付けと掃除、それから明日の仕込みをしたら今日の業務は終わり。
オレはこの仕事にもすっかり慣れ、潤くんと雪乃さんと三人、店も上手く回っていると思う。
いつも早めに上がる雪乃さん。
明るい雪乃さんがいると賑やかなこの店も、男二人では静なもので、何を話すでもなく黙々と作業を進めていく。
どんぶりを洗う流しの音とホウキを掛ける音だけの店内。
ふいに
カラカラと音がして入り口の戸が開いた。
時々こういう客もいる。
こんな時の対応も慣れたもので
「すいませーん。今日はもう………閉………店………」
声と一緒に客に向いた顔が固まった。
「……………………おおのさん?」
ようっ!と片手を上げて入ってくる。
その姿は、久しぶりなのにまるで離れていた時間を感じさせない。
オレの恩人で、boysclub『PARADOX』のオーナーだった。
はっとして振り返るカウンターの中。
潤くんは、一瞬目を見開いたけど、次の瞬間にはまるでそれを隠すように表情を消した。
流しに視線を落として無言で洗い物を続ける潤くんに
「元気だったか?相変わらず美人だなぁ」
まるで常連客のように話しかけながらカウンター席のイスを引く。
オレを視界に入れて
「ようっ!ニノも元気か?」
と座った大野さんが、んっ?と腰を浮かせるとパッチワークの座布団の感触を確かめてフニャッと笑った。
「潤のことだから、どんな気取った店かと思ったら妙に落ち着くな」
店の中をキョロキョロ見回して、お客が置いていったマンガ雑誌を手に取ってパラパラと捲っている。
「これは俺の趣味じゃない。……いろいろあるんだよ」
憮然と返す潤くんが、普段は決して見せない顔で
びっくりしたよね
突然でどうしていいかわからなくて
だけど嬉しくて
その全部を圧し殺して
人のことは言えないけどさ
潤くんだって全然忘れられてないんだよね
何で今ごろ大野さんがここに来たのか、オレから見える背中からは何も伝わって来ないけど、せっかく再会出来たんだもん、どうせなら二人っきりにして上げたい。
「……あっ、オレ……雪乃さんが、心配だから、
先に帰るね。潤くん、後よろしくね」
取って付けたような言い訳をしてそそくさとエプロンを外した。
下手くそなウソは百も承知。
潤くんにも大野さんにもバルバレなのはわかってるけど、お邪魔虫は退散するに限る。
片付けもそこそこに外に出ると
「おいっ!ニノ!」
背中に潤くんの声が追いかけて来たけど、聞こえないふりをして夜道を駆け出した。
つづく