その夜、オレは潤くんの部屋を訪ねた。


間取りはオレの部屋と同じ筈なのに、オレの部屋とはまったく違う、家具も小物もセンス良くオシャレに飾られていた潤くんの部屋。


そこも今は荷造りの途中で殺風景な佇まい。


ソファーに促されて、冷えたビールがグラスに注がれる。


「……ゴメンね、忙しいのに」


そう言うオレに笑顔で


「いや、荷造りもだいたい終わってるから。
実家に帰るんだから、家電とかは殆ど置いていくしね。ここに出てるものはもう貰い手も決まってるんだ」


出ていく準備が進んでいることを淡々と話す。
そんな潤くんに聞いてもいいものか戸惑う。


だけど、グラスに注がれた液体を喉に流し込んで、ここに来た目的を口にした。


「……このまま大野さんと離れちゃっていいの?」


潤くんは一瞬片眉を上げて俺を見たけど、すぐにグラスに視線を戻してフッと口許を緩ませた。


「いいも何も、もう決まった事だし」

「だって、潤くん大野さんのこと好きなんでしょ?
大野さんだって……」

「フフッ。
俺は街で男を漁ってるところを大野さんに拾われたんだぜ。そんで、今まで大野さんの指示で男に身体を売ってきたの。
元々そんな関係、どうこうなんて、なるわけないじゃん」

「ここに連れてきたのは、潤くんを危険から守るためでしょ?
それに、大野さんだって元はここのNo.1なんだもん。立場だって変わらない。
仕事と気持ちは関係ないでしょ!」


思わず前のめりになるオレとは裏腹に、ソファーの背に凭れる潤くんは冷静で


「……例えそうだとしても、それでも今どうにもなってないんだから……
そういうことなんだよ」

「ちゃんと好きだって言ったの?」

「言ってはないけど。
ニノにだってわかるんだから、大野さんだって気付いてるでしょ?
それでも動かないんだから、そこまでってことなんだよ」

「言ってみなきゃわかんないじゃん」


潤くんにはそう言ってはみたけど、
一見ぼんやりとしていて何も考えてないように見える
けど、全てをわかって何手も先を読んでいる大野さんが気付いていないとも思えない。
それは、オレたちが大野さんの気持ちに気付いていることも含めて。
だから……


「今さら言ったところで……
俺が田舎に帰ることは変わらない。
大野さんだって、ここを離れることは出来ない。

……どんなに想ったって、どうにもならないことがある。
そんなの、ニノだってわかるだろ?」

「それは……」


自分の状況も含めてわかりすぎるくらいわかった。


「いいんだよ。俺は……
それより、ニノこそいいのか?
このままあの人の前からいなくなっても。
あの人、探すんじゃないの?」

「オレは……消えた方がいいんだ。
オレたち、そんな深い話してないから、オレがここからいなくなりさえすれば、あの人にオレを探す術はない。
だいたい、探すかどうかもわからないし……」


別れ際のあの人の青ざめた顔が浮かんで、胸がズキンッと痛んだ。


あの真っ直ぐな気持ちを弄んで裏切ったんだ
そんなオレを探しに来るなんてあり得ない……


それでいいんだ……


「ニノがいいなら、いいけど……

ああ、もうあんまり日にちがないから、荷造りしといてな」

「オレは荷物なんてたいして無いから……」

「じゃあ、お互い過ぎたことはここに置いて行って、これからよろしくな、相棒」


無理をしてでも前を向こうとする潤くんがグラスを掲げる。


「……うん、こちらこそよろしく」


オレはそれにカチリとオレのグラスを合わせた。


周りがどう思っても、いや、本人だってどんなに願っても、どうにもならないことはある。


自分が掴めなかった幸せをこの二人に……
なんて、それはオレのエゴ以外の何物でもないんだ。




喉を落ちていくビールがいつもより苦い気がした。













つづく