潤くんはオレの頭を2.3度ぐしぐしと撫でた後、チラッと大野さんを見て、そしてオレに笑いかけた。
「俺の店、もうすぐオープンなんだよ。
だけど、人手が足りなくってさ。
向こうでバイトでも雇おうかと思ってたけど、ニノに手伝ってもらえるなら言うことないし」
潤くんの店、もうそんなとこまで行ってたんだ。
「オレ、右手で包丁持てないし、迷惑じゃ……」
「うち、料亭じゃなくてラーメン屋だぜ?
お前の腕前は毎日メシ食ってる俺らはよく知ってる。全然問題なし。つーかむしろ大歓迎。
俺の実家で良かったら、部屋も空いてるから住むところも心配しなくていいし。
ああ、母親いるけど、それで良かったら」
働き口だけじゃなく住むところまで考えてもらったのは有り難いけど…
「せっかくお母さんと水入らずなのに…」
「そこ?そこは全然大丈夫。
母親、元々人好きな人だから、愛想のない息子よりニノがいた方がかえって喜ぶと思うよ」
ずいぶん気を使わせてしまっていると思いながらも、ここを出るなら一日も方が早い方がいいし。
かといって行く宛はないし。
潤くんが望んでくれるなら、こんな有り難いことはない。
だけど、そこまで甘えてしまっていいものか 。
返事に困ってテーブルを挟んだ向かい側を見ると、大野さんはふにゃりとした笑顔でオレと潤くんのやり取りを見ていた。
何だかその顔を見ていたら、オレの身体の力も抜けて
「潤くん、本当にオレ、付いていっていいの?」
戸惑いがちに見上げると
もちろん!という力強い言葉。
その言葉に後押しされて
「一生懸命頑張ります。よろしくお願いします」
と頭を下げていた。
うん!と何故か嬉しそうに笑ってもう一度オレの頭に手を置いた潤くんが、思い出すように宙を見上げて
「だけど、ビックリするなよ。
本当に田舎で、なんにもない所だからな」
ちょっと顔をしかめながらオレに言うのに
「だけど、近くに海も山もある……良いところだよ」
大野さんが何だかしみじみと言った。
「大野さん、行ったことあるの?」
いつもと違う大野さんの雰囲気。
そして潤くんの田舎に行ったなんて話は初耳で
「ああ、店を決める時に相談されてな。
一緒に見に行ったんだよ。
近くに漁港があってさ、田舎だけど人口もまあまあだし、あそこはいい場所だと思う。
あとは、潤の腕次第たな」
「そこは任せてよ」
ニヤリと笑う大野さんに片腕の力こぶを見せる潤くん。
お互いを見合って普通に笑い会う二人。
だけど、
この二人にも別れの時は迫っているんだ。
つづく