手早く片付けを終わらせて、二人でマンションを出た。


タクシーはマンションから少し離れた路地に呼んでいた。
自宅を知られない為の業界人の常識だという。


短い距離だとはいえ、あなたと並んで歩けるのが嬉しくて。
おまけにさっきの熱が燻っているのはお互い様で。


闇に紛れてあなたがオレに腕を回したのをいいことに、こっちからもそっと身体を寄せた。


あなたの温もりとあなたの匂いに包まれて、また熱が再燃しようとするけど、すぐにやって来たタクシーに名残惜しくも離れる温もり。


後部座席に少し距離を開けて座り、別々に窓の外を眺めるけど、ドライバーの死角で重ねられた手を握り返した。


無言の車内で、お互いの指先だけが雄弁に語り合っていた。




車はあっという間にオレの住むマンションに着いて、お互いにしぶしぶ離れた手。


「じゃあね」と車の中から振られた手に、オレも小さく振り返した。


車が見えなくなるまで見送って、ひとりエレベーターに乗る。


このビルは『PARADOX』の事務所でもあり、そこで働くオレたちみたいな者の寮でもある。


ここに来てから、仕事と称していろんな男に抱かれてきた。
擦りきれた、スッカスカのこの身体。


だけど、あなたはそれを承知でこんなオレでいいという。


心も身体も綺麗すぎるあなたには全然相応しくないのに。







もしも、本当にこんなオレでいいのなら……


こんなオレをあなたが望んでくれるのなら……


オレは……………




やっぱりオレは、あなたといたい。


もっと近くで、一緒に。


同じ物を見て、同じ物を食べて、笑いあう。


今日のような日が送れるなら、他には何もいらない。


オレがそう言ったら、あなたは喜んでくれるかな。


その時のあなたを思い浮かべてみる。


きっと全開の笑顔を向けてくれるあなたを見て、オレの方が照れてしまうんだ。


そんなことを思い浮かべてしまったら、早くあなたのその笑顔が見たくなってしまった。


今度はいつ会えるだろう?


ベットに横になってもなかなか眠れずに寝返りを打ち続けていたら、深夜、しかも大分深い時間になってからあなたから着信があった。


小さな画面に浮かぶ文字。






今家に着いたよ
かずちゃんはちゃんと帰った?


マンションの前まで来たでしょ?
ちゃんと帰ったよ


今日はもうちょっとだったのにね
残念


何言ってるの!
明日、ってかもう今日だ。仕事でしょ?
変なこと考えてないで寝なさいよ


はーい
今日のかずちゃんを思い出しながら寝ます
眠れるかな?


ねぇ、次はいつ会える?


例の件でちょっと立て込みそう
でも、いつでもいいよ
会いに来てよ


ンフフ
あんまり相葉さんに負担のかからない日にね
話したいこともあるし


何だろう?
楽しみにしてていい?


さぁ?どうでしょう


なんか怖いなぁ
でも、楽しみにしてるね


フフ
本当にもう寝ないと
おやすみなさい


おやすみ







画面を閉じて、携帯を枕元に置く。


今度あなたの部屋に行った時に、オレの想いをあなたに伝えよう。楽しみにしていてね。


ひとりの部屋の狭いベットの上で、その日オレは幸せな気持ちで眠りについた。











つづく